志のチカラ

“ 日本流 ” を極めて上海の “ 一流 ” に。 山口 あきこ 氏 ネイリスト 人気ネイリストとして活躍し、上海に自身のネイルサロンをオープン。ネイル技術とセンス、そして日本流のおもてなしでトップサロンに成長させた山口さんの、中国でのサービスの常識を覆した手法に迫る。

山口 あきこ(ネイリスト) 1974年静岡県生まれ。中国・上海在住。19歳のときに訪れたニューヨークでネイルに目覚め、その後ロサンゼルス留学中に独学で勉強。日本に帰国後、ネイルスクールへ通い日本ネイリスト協会JNA1級資格取得。東京の成城、広尾、赤坂でのサロン勤務を経て独立、出張ネイルを始める。ファッション誌やアーティストのPV撮影、イベントなどで活躍し、同時に都内の専門学校でネイル講師も務める。2007年、上海に現地法人を立ち上げ独資でネイルサロンKo Olina Nailをオープン、1万人の会員数を誇

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上海への出店を決めてから半年後にはオープンを実現
日本流の技術とおもてなしで、上海一のトップサロンに
中国にない予約制に伴うトラブルを回避するための秘策

上海への出店を決めてから半年後にはオープンを実現

──芸能人の施術もするなど、日本でも売れっ子ネイリストだった山口さん。まずはネイリストになったきっかけと、これまでの活動を簡単に教えてください。
明朗快活な山口さん。取材中、「不安だったこと」「苦労したこと」などを聞いても、笑いながら「なかった」と答える前向きさが印象的だった。

山口:19歳で1カ月ほどニューヨークを訪れたとき、美しくアートされたアメリカ人のネイルを見て感動したのが始まりです。黒人のおばさまが真っ赤な爪に1本綺麗なイナズマのデザインが入ったネイルアートをしているのを見て、強い衝撃を受けたのを覚えています。数年後、ロサンゼルスへ語学留学した際にも、近所のネイルサロンに客として通い、高度な施術をやってもらっては質問して学んだり、その帰り道にビューティーサプライ(会員制のプロ用美容品店)へネイル材料を買いに行ったりする毎日でした。

 帰国後はネイルスクールへ通い、JNA1級の資格を取得。東京の成城、広尾、赤坂などのサロン勤務経験を経て独立し、出張ネイルを始めました。個人宅だけでなくスタジオなどへの出張や、企業やイベント企画、雑誌でのお仕事も多く、とても楽しく良い経験をさせてもらいました。

──初のご自身のネイルサロンを海外にオープンしようと思い、さらにその場所に上海を選んだのはなぜですか?

山口:顧客も増え、お客さまから「自分のサロンを出さないの?」とよく聞かれるようになり、少し考えはじめるようになりました。そこで、もしサロンを出すなら日本ではなく海外がいいな、と。もともと海外が好きだったし、悩むのはあまり得意ではないので、主人と話し合ってすぐ行動に移しました。上海を選んだ理由は、これから急成長してゆく中国で美容関連の仕事は需要があるのでは、と思ったからです。

──2006年の年末には上海への出店を考えはじめ、翌07年の1月に現地へ視察に行き、その4カ月後の5月にはオープン。驚異的なスピードですね。

山口:日本人は万全の態勢でスタートしますが、中国ではとりあえずやってみよう、ダメならやめればいいという考えでビジネスを始める傾向が強いんです。その分、何事も非常にスピーディなんですね。店舗物件にしても、日本人としては同時に何軒も探しながら最終的にどこが一番かと熟考して決めたいところですが、中国でそれをしていたら良い物件はあっという間に他の手に渡ってしまう。気に入ったらすぐに契約するなど、そのスピードについていかなくてはなりません。人材も同じで、半年後にオープンするお店への募集をかけても、「そんな先のことは分からない」「本当にオープンするの?」と言われるなど、すぐに働きたい人がほとんどです。なので、オープン後も引き続き増員しましたし、人材管理に関しては日本の管理システムをベースに中国の習慣・風習も考慮してアレンジしていきました。

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日本流の技術とおもてなしで、上海一のトップサロンに

Ko Olina Nailの受付。スタッフはほとんど中国人だが、みな丁寧な日本語を話し、日本流のきめ細やかなサービスを提供してくれる
──オープンして6年目の現在、1万人の会員数を誇る上海一人気のネイルサロンとなった貴店。施術料は中国ではかなり高額でありながら、本格派のネイルサロンとして着実に顧客を増やしていった秘訣を教えてください。

山口:中国のほかのサロンでは受けられない最上級のサービス、高度な日本のネイル技術と幅広い施術内容が、本格派ネイルサロンを自負している当店の大きな強みです。ネイリストはほとんどが中国人ですが、日本の技術と施術内容を徹底的に指導しているので、安心してお越しいただいています。

 最近はやりのソフトジェルのみを扱う専門店が多いなか、当店ではアクリルメニューも選べるようにし、ジェルはハードとソフト両方のメニューをご用意。中国、日本それぞれで人気のデザインを幅広く扱っていて、現在アートサンプルは3000点ほど揃っています。日本人のお客さまには薄いピンクやベージュが、中国人のお客さまには真っ赤やダークカラーが人気です。

 お客さまそれぞれのライフスタイルに合った施術のご提案のほか、ネイル以外にもまつげエクステやパーマの施術、デコレーション小物の販売など、幅広くご利用いただける点も支持していただいていますね。

──中国においてサービスも “ 日本流 ” にこだわろうと思ったのはなぜでしょうか。
最近はやりのジェルだけでなくアクリルのメニューも揃え、サンプルを3000点も用意するなど、技術だけでなく選択肢の広さも人気。

山口:私がオープンしたころにも中国のローカルサロンはすでに存在していましたが、施術中に携帯電話をいじったり何かを食べたり、そのサービスは良質とはとてもいいがたいものでした。経済成長に伴いおしゃれしたいけどどうしたらいいのか分からない女性や、お化粧は肌に悪いのではと心配してすっぴんで外出する女性もまだ多く、またサロンの技術も知識も衛生管理も十分なものではなかったんです。そんな中国で、日本の高いネイル技術と素晴らしいサービスを広めたい、高いお金を払っても得した気分になれるようなサービスを提供したい、と思いました。

──当然ながら中国と日本では常識やマナーが異なると思います。中国人スタッフを教育する上で気を付けていること、工夫していることを教えてください。

山口:オープン当時、経験者の中国人ネイリストを50名ほど面接し、最終的に6名ほど採用したのですが、まずはそこで中国と日本の常識のちがいを強く認識させられました。というのも、面接中に悪びれることなく携帯電話で通話する子や、面接に友達を連れてくる子、なかには大きな息子さんに付き添われて来た40代女性もいて。日本では考えられないですよね(笑)。

 教育に関しては、口で言うだけでなく「就業規則」を書面に起こすようにもしました。最初は日本のように一般的な内容から始まり、最終的には「テーブルに肘をつかない」「あくびをしない」「壁に寄りかからない」などどんどん新しい事柄が書き足されていって、いまでは13ページに及びます。日本では当然といえることばかりですが他店で長年サロン勤務経験のあるスタッフでさえ、お客さまが来店しても自分の担当じゃなければ挨拶もしないなど、おもてなしの心は非常に希薄なものでした。そんな彼女たちの意識を変えていくには、小さなことにも注意を払わせる必要があると思ったんです。そうすることで、一つひとつの行動にはすべて意味があり、何かをすることによってお客さまが喜び、それが結果的に自分の喜びにつながるということを理解してもらえるようになりました。

 また、そのためにはただ厳しく教育するだけではなく、私もオンとオフを使い分け、理念などがしっかり伝わるようにスタッフを大切にしましたし、彼女たちがお互いに思いやりをもち合えるような快適な職場環境にすることにもこだわりました。仲良く助け合ってフォローし合えれば、お客さまにおもてなしをする心も自然に芽生えるもの。普段のサロンのなかではもちろん、懇親会や研修旅行などでスタッフ間の親睦を深めることにも配慮していますね。

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中国にない予約制に伴うトラブルを回避するための秘策

オープニングのときからサロンを支えてくれ、山口さんが全幅の信頼を寄せるマネジャーのココさん(左)と一緒に。
──予約制度など中国ではまだ浸透していなかったサービスに戸惑う中国人のお客さまもいらっしゃったと思います。そのような場合、どのように対応されたのでしょうか。また、日本人や欧米人のお客さまの反応は?

山口:そうですね、中国のサロンには予約制、会員制というものがないので、最初のころは飛び込みでご来店されたお客さまから「どうしていまやってもらえないのか」などとクレームを受けることはしょっちゅうでした。それから、例えばあと5分で予約のお客さまが来ることを伝えても「まだ来てないんだから、いま私にやって」と言われたり、予約時間にいらっしゃらなかったので、ほかのお客さまを優先して施術していたら、数時間遅れて到着した予約のお客さまに「私は予約していたのだから、すぐにお願い」と要求されたことも。そのようなクレームをうまくかわしつつ予約制とサービス向上を徹底させるための対応策として、社内規則に書かれたとおりの対処をし、例外は一貫してつくらないようにしています。そうすると、「あのお客さんには融通をきかせたでしょう。なら私にも」と言われても、「どのお客さまにもそのようなことは一切しておりません」と乗り切れるんですね。

 はじめは戸惑っていらっしゃった中国人のお客さまは、待たされることのない予約制や、爪の健康状態を管理してもらえる会員制(カルテでの顧客管理)を、すぐに受け容れて満足してくださるようになりました。また、日本人や欧米人のお客さまは「中国でもこんなサービスを受けられるのね!」と感激してくださいます。実は集客の広告はほとんど出していなくて、満足してくださったお客さまの口コミによって顧客がどんどん増えていったんです。

「上海美容展示会」でのステージデモンストレーション。たくさんのお客さんが集まり、山口さんの熟練のネイル技術にくぎ付けになった。
──それまで中国に住んだことはなかったそうですね。慣れない上海で大変だったことは?

山口:大変と思ったことはあまりなかったですね。私は中国語が未だに得意ではないのですが、オープニングのときから私を助けてくれているココという現マネジャーの中国人スタッフが、日本に留学経験があって日本語堪能、さらに日本人である私の考え方もよく理解してくれたおかげで、幸いにもさまざまなことをスムーズに進めることができました。

 しいていうならば、家具製造業者の中国人の「問題ない」という言葉を信じてガッカリしたことかな。例えば、ネイルテーブルはサイズからデザインまですべてオーダーメイドしたのですが、「問題ない、2~3週間もあれば希望通りのものができる」という業者の言葉を信用したら、実際は2カ月もかかりました。しかもクオリティもかなり低くて。当然つくり直しを要求しましたが、さすがにそれは2週間で納品させましたね。中国での「問題ない」は挨拶のようなものであり、日本語の意味合いとはかなり異なるということを、身をもって体験しました。けれども、それも文化の違いと捉えれば「面白い!」と思えることになるんですけどね(笑)。

──最後に今後の目標と夢を教えてください。

山口:まずは中国国内でフランチャイズ店を増やしていくことを当面の目標としています。ゆくゆくは他の国での出店など、新天地での一歩をまた踏み出すのも面白そうですね。それから、プライベートではそろそろ子供を産んで家族を増やし、ここまで私をあたたかく見守ってくれた日本の親にもそろそろ恩返しがしたいです。自分も楽しく仕事をしながら親孝行ができれば、こんなに嬉しいことはないですね。

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<海外生活・ビジネスQ&A>
Q.これまで海外で驚いたことを教えてください。
A.ロサンゼルスに留学していたときのホストマザー。80歳を超えていたけれど、毎週月曜の朝9時に美容室へ行って髪をセットし、その後ネイルサロンへ……という彼女の生活はとても素敵でした。月曜の夜に友人同士で集まってホームパーティーを開き、そこでカードゲームをするのですが、みんなお洒落して出席するんです。アメリカでは爪の手入れは身だしなみといいますが、お年寄りもその美意識が高いということに女性として感銘を受けましたね。
 中国での“ゆるさ”に驚かされることも多々あります(笑)。例えば、工事が予定通りになかなか進まないことはしょっちゅうですが、大きなビルや有名なホテルでさえも建設期日が大幅に遅れ、何年という単位でオープン日がずれ込むこともあるんです。最初は驚きましたが、いまはもう「中国だから」と慣れてしまいましたけどね。
Q.中国でのビジネスあるいは生活のコツは?
A.やはり柔軟性が決め手だと思います。例えば、日本のように発注したら納期までに完璧なものが届かなくとも腹を立てずに事前にある程度予測し、それならばと違う方法を考える臨機応変さが問われますね。文化や習慣の違いを楽しむことがポイントです。それから、中国で騙されたという話をよく聞きますが、それは良い出会いと、人とどれだけ信頼関係を築けるかに大きく左右されるのだと思いました。私がここまで来られたのも上海を大好きになれたのも、本当の妹のように信頼しているココのおかげです。最近、モニカという女性もチーフとして加わり、ますます安泰。私にとって彼女たちはなくてはならない大切な存在です。
Q.中国人スタッフやお客さんからの日本人の印象は?
A.日本の文化が好きで日本語を勉強している人が中国には多く、日本へ行ったことがある人は「日本のサービスは一流だ」とみな口を揃えて言います。当サロンの中国人のお客さまは日本が大好きで憧れている方も多く、日本で人気のあるデザインを希望されることもよくありますね。うちのスタッフは、日本人のお客さまには綺麗で上品でおとなしい方が多いという印象をもっているようです。

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