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ものづくりへの情熱―― 「理系人」の強みを活かして 多国籍チームをマネジメント  | いまから15年前、大学の研究室から心機一転、ビジネスの世界へ飛び込んだ森英悟さん。日本IBMを経てノキアに転職。フィンランド本社時代には20カ国以上の技術者で構成されるグローバル開発チームを率いた。そして現在は、コードレス電話機の世界的なブランド、ユニデンの代表取締役社長として陣頭指揮に当たっている。一貫してものづくりに対するパッションをもち続ける森さんは、「ものづくりがグローバル化しているなかで、技術者にもグローバルな

日本IBM、ノキア・ジャパンと外資系企業の日本支社に勤めた後、フィンランドのノキア本社へ。スマートフォンのマルチメディア開発責任者として約100人の技術者からなる多国籍チームを率いた。2012年1月、ユニデンに転職。同年6月に代表取締役に就任した。

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自分の研究はビジネスの世界で通用するか?
日本語で伝えられることは、英語でも自在に
多様なメンバーには共通のルールが必要
現在のエンジニアに求められる英語力
理詰めだけでは成功しない。柔軟な姿勢が肝要

自分の研究はビジネスの世界で通用するか?

 「子どものころからものづくりに興味があって、将来は自分の手でロボットや宇宙船をつくりたいと思っていたんです」というユニデン代表取締役社長・森英悟さん。そんな夢を追い続け、北海道大学在学中にはロボットや人工知能の研究に打ち込み、「この道を極めよう」と博士課程まで進んだが、大学院を修了後、システム・エンジニア(SE)として日本IBMに就職する。 

 「電子工学やコンピューター・サイエンスを勉強するうちに、自分が身につけた知識を実際のビジネスの場で試してみたい、という気持ちが強くなってきたんですね」

 日本IBM時代は、同社のハードウェア・ソフトウェアと、独SAP社や米オラクル社など外国メーカーのソフトウェアを組み合わせた基幹業務システムを日本企業に提供する仕事に取り組んだ。

 「当然、外国から来た他社エンジニアらと英語で話す機会がぐっと増えました。学生時代も海外からの留学生を相手に英語を使うことはありましたが、ビジネスの場で年齡や経験の異なる海外の人達と技術的な議論をするようになり、少しずつですが自分が英語の世界に入ったことを実感するようになりました」

 既存のハードウェアとソフトウェアを組み合わせ、ソリューションとして提供する仕事に没頭する毎日だったが、「自らの手でものをつくりたい」という森さんが学生時代からもち続けている欲求は大きくなるばかりだった。そんなとき、森さんは偶然、フィンランドの携帯電話メーカー「ノキア」の日本法人の求人を見つけた。

 「心のなかにある『ものづくり』の虫がうずいてきていたのかもしれませんね。面接官から、『新しい次世代の携帯電話を一緒につくろう』と熱心に誘ってもらったこともあり、入社を決めました」

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日本語で伝えられることは、英語でも自在に

子どものころはロボットや宇宙船をつくってみたいという夢をもっていた。「ものづくり」への情熱をもち続けた森さんは、いつしか世界各国から集まった選りすぐりのエンジニア達を率いる文字どおりの「グローバルマネジャー」となった。
子どものころはロボットや宇宙船をつくってみたいという夢をもっていた。「ものづくり」への情熱をもち続けた森さんは、いつしか世界各国から集まった選りすぐりのエンジニア達を率いる文字どおりの「グローバルマネジャー」となった。

 ノキア・ジャパンでは、数年後の製品化につながる応用研究を担当した。そして、しばらくして部下の大半が外国人の研究チームを任されるようになった。自分のチームで構想したアイディアを事業化するには、フィンランドの本社で行われるコンペで認められなければならない。世界各国から集まった選りすぐりの研究チームが競い合う社内コンペだ。優秀なアイディアには予算をつけてもらえるが、ダメならばチームごとつぶされてしまう可能性もある厳しい環境だ。

 「チームの期待を背にコンペでプレゼンするのは、かなりのプレッシャーでした。部下にはネイティブスピーカーもいましたから、上司として『英語が下手』という言い訳はできない。僕の話し方、伝え方の良しあしがチームの未来を左右します。ですから、英語のスキル、伝える力のスキルというものを本気で意識したのは、そのころからでしたね」

 また、ノキアにはさまざまな研修制度があり、英語でのコミュニケーション能力だけでなく、「本質を見抜く目」が鍛えられたという。

 「研修施設に何日間も缶詰になって、与えられたテーマで繰り返しスピーチをしたり、ロールプレイングを取り入れた研修で鍛えられました。例えば、『あなたはあるアフリカの国の支社に就任したが、部下は対立するふたつの部族出身』という設定を与えられます。実際に部屋に入ると部下役の俳優がふたりいて、何かもめている。その場で上司としてふたりと話しながら、彼らが対立している本当の理由(実は部族対立ではない)を見抜かないといけない。表層だけでなく『本質を見ることが大事』ということなんです」

 ノキアはフィンランドの会社だが社内での公用語は英語。研修にはフィンランド人のほかドイツ人やフランス人、中国人など多様な国籍の人が集まる。「日本人と研修で一緒になったことはほとんどない」という環境のなかで森さんは、文化や考え方の違う人間で構成されるチームのリーダーに求められるコミュニケーションスキルを学んでいった。

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多様なメンバーには共通のルールが必要

 2008年、森さんはノキアのフィンランド本社に配属され、同社の代表的スマートフォン「N9」のマルチメディア部門開発責任者という重責を担うことになった。

 「部下は100人くらいでしたが、国籍を見ると20~30カ国あったと思います。若くてやんちゃなエンジニアもいましたし、ネットワーク上のバーチャルなチームメンバーで5年ぐらい一緒にやっていたのに一度も会ったことがない人もいました」

 森さんは優秀なエンジニアがいれば、世界中のどこに住んでいようと積極的にチームへの参加を呼びかけた。フィンランドへの海外転勤を嫌がる人もいたが、そんな場合はネットワーク上だけでやりとりするフリーランスのような契約でプロジェクトに参加してもらった。

 多国籍チームゆえ、国民性や文化の違いからメンバー間に軋轢(あつれき)が起きることもあった。プログラム開発の掲示板なのに、「自分のほうが優秀だ」と他のメンバーを罵倒するようなメンバーもいたという。

 「悪く言われているメンバーは、確かにチームのなかで実力的に劣っていたかもしれない。でも私は悪口を言う側を注意しました。チームはみんなの力を引き出して成果を挙げなければなりません。このときは、日本のサムライをたとえに、話をしました。サムライは敵に向かって『オレのほうが強い』なんて自慢などしない。なぜなら、刀を抜いて斬り合えば、どちらが強いかはすぐわかるから。優秀なエンジニアならば、そんな罵倒などしているよりプログラムのコードで示せばいいだろうと。そう話したら理解してくれました」

 森さんは自分のチームを運営していくために、メンバー全員が納得する「共通のルール」をつくった。

「基本は相手に対するリスペクトです。相手をリスペクトし、人の意見を聞くことをチーム共通のルール、価値観として共有しました。もちろん、ソフト開発の世界では能力の差がすぐに出る。チームにふさわしくないメンバーは、辞めてもらわなければならない場合もあります。でもその決断は私がするし、それが私の仕事なんだと。メンバーには個々のパフォーマンスに集中してもらいました」

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現在のエンジニアに求められる英語力

エンジニア出身のマネジャーの強み・弱みを語ってくれた森さん。ものづくりのプロセスや価値を分かっている強みを活かしつつ、技術の優劣とは別の次元で語られる意見にも耳を傾ける柔軟性が大事だと言う。
エンジニア出身のマネジャーの強み・弱みを語ってくれた森さん。ものづくりのプロセスや価値を分かっている強みを活かしつつ、技術の優劣とは別の次元で語られる意見にも耳を傾ける柔軟性が大事だと言う。

 森さんは2012年、ユニデンに入社した。森さんにとっては、外資系ではない初めての日本企業だ。ノキアを辞めた森さんには、実は世界的に有名なIT企業からも熱烈なオファーがあった。

 「時代の先端を突っ走る大手IT企業は、ある意味、自分がそこでどのような仕事をするのかが想像できてしまったんですよ。むしろ、自分がもち続けてきたパッションを活かせるところで挑戦してみたかった。純粋なものづくりをやっている日本のメーカーで働くチャンスがあるならば、得ることも多いだろうと思ってユニデンに入社しました」

 ユニデンはコードレス電話機を主力とするメーカーだが、早くからグローバルな事業展開を進めている。製品の開発や設計は日本国内だが、部品は中国で調達し、製造はベトナムと中国の工場。そして売るのはアメリカやオーストラリアだ。森さんは、これまでのグローバルな環境で培ってきた自身の経験を、製品の開発から販売までのすべてで活かしたいと考えたという。

 ユニデンに限ったことではなく、現在の企業のものづくりを考えれば、製造から販路まで国内だけで完結するものではない。グローバルなネットワークのなかで行わるようになってきている。当然、ものづくりの現場でもグローバルなコミュニケーションが要求されるので、技術者にも高度なコミュニケーションスキルが求められる。

 「現時点では、そのような能力をもったエンジニア、あるいはエンジニアリングマネジャーが日本では不足していると思います。ただ、必ずしも海外を志向することだけが得策であるとは考えていないんです。私自身、フィンランドのノキア本社に行くまでは外資系ではあっても日本国内で働き、学生時代も留学の経験はなかった。日本のなかでも意識を高くもって、英語を話す機会をつくり、繰り返し勉強していけば、英語力を伸ばしていけると思います。そして、ただ闇雲に勉強するのではなく、自分の言い方は相手に通じていたのか、相手の言っていることが理解できていたか、自分自身にフィードバックし続けることが大事です」

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理詰めだけでは成功しない。柔軟な姿勢が肝要

 ユニデンの社長として会社全体をマネジメントする立場になっても、「エンジニアとしてのスピリットをもって仕事をしている」という森さん。ノキア本社でチームを率いていたときも「人のマネジメントというより、プロジェクト、ものづくりをマネジメントしていると感じていた」と言う。

 「エンジニア出身のマネジャーの強みは、ものをつくるプロセスや価値を分かっていること。また、新しく生まれた技術の価値をいち早く理解できるところだと思います。逆に、常に理詰めで考えているので、自分は正しいという先入観にとらわれてしまう危険性もあります」

 森さんもこんな経験がある。携帯電話のカメラの性能を決める際、画素数の多さよりも画質を優先した。画質を改良するのは、単に画素数を多くするよりもより高度な技術が必要とされる。

 「しかし、これが全然売れなかったんですね。営業部門からは、『お客さまは5メガより8メガのほうを買う。画質がどうこうという説明より、箱に書かれた8メガの数字を見て買うんだから』と言われました。マーケティングという視点では技術陣の狙いよりも営業の意見のほうが正しかったわけです」

 だからこそエンジニアは人の意見を聞くことが大事と森さんは指摘する。「感性」や「マーケティングデータ」のような技術の優劣とは別の次元で語られる意見にも耳を傾ける、柔軟な姿勢が求められるのである。

 日本の大手メーカーの業績不振が続き、「ニッポンのものづくり」が危うくなっている印象もある。しかし、森さんは最後にこう語ってくれた。

 「若いエンジニアにはぜひ世界を目指してほしいと思います。技術、そして会社は山あり谷ありで、好不調があります。でも、ものづくりに向かうエンジニアのパッション、モチベーションは不変のものです。グローバル化するものづくりの現場で海外の技術者と切磋琢磨して、日本人の優秀なエンジニアが出てきてほしいと思います」

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