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日本の弁護士事務所からアメリカに留学した後、日本に帰らず現地ローファームで10年以上勤務した中町昭人さん。日本人弁護士が米国のトップクラスのローファームでパートナーとして活躍する前例はほとんどなかった。当然その道のりは平坦なものではなかった。中町さんは、いかにして壁を乗り越えたのか。常にグローバルな視点をもち、困難に立ち向かうその姿勢は、確固とした強い信念の表れだった。

早稲田大学法学部卒業後、1999年司法試験に合格。2001年に弁護士登録(第一東京弁護士会)。高井伸夫法律事務所に入所し、05年から同事務所の上海代表処主席代表を務めた。07年5月に弁護士法人ブリッジルーツを設立。

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中国の若者に見た「経済成長の可能性」 弁護士に対するニーズはきっと高まる!
「デキる社員は約束を守らない」 日本ではあり得ない中国の常識
組織への帰属意識が希薄な中国人 マネジメントは一筋縄ではいかない
外国語をあえて使わないことも…… 弁護士に求められる言語の用法
しっかり自分の意見を言うことの大事さ グローバル人材の必須要件

中国の若者に見た「経済成長の可能性」
弁護士に対するニーズはきっと高まる!

独立志向の強かった橋本さんは、学生のころから「士業」として自分の腕一本で生きていくつもりだったという。そして司法修習生時代に出会った仲間からの影響で、中国ビジネスに強い興味を抱くようになったのだとか。
独立志向の強かった橋本さんは、学生のころから「士業」として自分の腕一本で生きていくつもりだったという。そして司法修習生時代に出会った仲間からの影響で、中国ビジネスに強い興味を抱くようになったのだとか。

 橋本さんが代表弁護士を務める弁護士法人ブリッジルーツは、上海と福岡、東京にオフィスを開設している。1年のうち、福岡と東京にほぼ半分ずつ滞在し、顧客の対応に追われながらも、頻繁に上海へ出張する多忙な毎日だ。

 「日本から中国に進出する企業、あるいはすでに進出している日系企業の法務面のサポートを業務の柱としています。また、韓国の法律事務所とも提携し、日本国内に営業所や現地法人を立ち上げる韓国企業についてもお手伝いさせていただいています」

 橋本さんは学生時代、「独立志向の強い自分には会社勤めは向いていない」という気持ちが強く、企業への就職はまったく考えていなかったという。そして、自分でできる仕事は何だろう、と漠然と考えているうちに、「法学部ということもあり、弁護士という職業が自然と頭に浮かんできた」そうだ。

 1999年に司法試験に合格した橋本さんは、その当時から中国での弁護士業務に興味をもっていたという。

 「試験に合格してから正式に弁護士業務を開始するまでの司法修習生時代、非常に優秀な同期が何人かいましたが、彼らは口をそろえて『弁護士として海外で活躍したいなら、これからの時代は中国だよ』と私に言うんですね」

 その理由は、アメリカは大きなローファームがたくさんあって、日本の弁護士が新たに割り込むのは非常に難しい。しかし、これから経済成長が見込まれる中国ならば、日本の弁護士に対するニーズはきっと高まるに違いないというのだ。そして、そう主張する「優秀な同期」は実際、中国専門の弁護士事務所に内定をもらっていた。

 「彼らは本当に優秀で、司法試験も一発で受かったり、大学3年で受かったりして、本当に天才だと思って一目置いていたのですが、彼らがそこまで言うのならば、『よし、自分の目で確かめてやろう』と思って、実際に中国に行ってみることにしたんです。2000年に上海から杭州と、いわゆる長江の河口周辺に位置する『江南』の地を訪れました。まだ現在のようには発展していない田舎でしたが、とにかく活気がすごかった。それと若者たちの目の輝き。向上心とバイタリティがあって、『これは本当に発展するに違いない。自分の進むべき道は中国だ』と確信しました」

 2001年、当時中国での業務に力を入れていた高井伸夫法律事務所(東京・千代田区、現・高井・岡芹法律事務所)に入所した橋本さんは、04年には念願かなって高井法律事務所の上海代表処に赴任、翌年には上海代表処の主席代表に就任した。そして07年に独立し、弁護士法人ブリッジルーツを立ち上げた。

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「デキる社員は約束を守らない」
日本ではあり得ない中国の常識

 実際に中国での仕事を始めると、まさに驚きの連続だった。

 「中国人の考え方は日本人と全然違って、日本の常識が通用しないですね。契約書で支払期限をちゃんと決めているのに、そのとおりに支払ってくれないといったことはよくあります。これは、中国の企業も個人も同じです。日本の企業ならば、会社の信用に傷がつくことを恐れて、そんなことは普通ありません」

 では、なぜ中国では平気で支払期限を無視するのか。中国企業の財務担当者は「いかに支払いを遅らせるか」というのがむしろ評価につながる側面があるからだという。

 「こういう商習慣に対しては、どうすれば契約書どおりに履行させることができるかを考える必要がある。韓国にも中国に似た部分があります。ひょっとすると、中国や韓国が非常識なのではなく、反対に、日本が独特なのかもしれません」

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組織への帰属意識が希薄な中国人
マネジメントは一筋縄ではいかない

中国独特の商慣習などに関する情報を提供して、現地に進出する日本企業をサポートしている橋本さん。自身の中国ビジネスにおける豊富な経験をもとにした適確なアドバイスがクライアントに好評だ。
中国独特の商慣習などに関する情報を提供して、現地に進出する日本企業をサポートしている橋本さん。自身の中国ビジネスにおける豊富な経験をもとにした適確なアドバイスがクライアントに好評だ。

 両国の常識の違いは、会社と社員の関係にも明白に表れる。橋本さんは、中国でクライアントのサポートを続けていくうちに、日系企業にとって中国人スタッフを組織に順応させることが重要な課題となっていることを、痛切に感じるようになった。

 日本では一般的に会社に強い忠誠心をもつ人が多いが、中国人は組織への帰属意識が希薄で、むしろ組織からの「独立心」が旺盛だ。日系企業が現地で採用したスタッフに、仕事を教え込んでようやく戦力に育て上げた途端、スタッフのほうは雇用条件の少しでも良い転職先を探したり、あるいは勝手に取引ルートを自分のものにして独立してしまったり、橋本さんのクライアントのなかにも中国人社員のマネジメントで右往左往させられているところもめずらしくなかった。

 「中国人をコントロールすることも一筋縄ではいきません。彼ら自身が『ボス』と認めた人の指示しか聞いてくれません」

 ボスと認められるには、決裁権をもって自分で決められる人であること、そして尊敬される人物であることが条件だという。ところが、日系企業のマネジメントの実態といえば、日本の本社の中間管理職を「総経理」(現地法人の社長)として中国に派遣するものの、この総経理は黒塗りの車で出社し、社内では個室に閉じこもり、土日はゴルフ、すべては本社の指示待ち――、といった調子。これでは中国人スタッフからの支持を得ることはできない。

 そこで橋本さんは、自身の経験も踏まえてクライアントの日系企業に中国人スタッフとのコミュニケーションの大切さをアドバイスしている。

 「中国人と同じ部屋で一緒に仕事をして、従業員とコミュニケーションを取ろうとする人が尊敬を勝ち得ます。本社と現地の板挟みになったときに、現地の従業員をかばうような人もボスとして認められます」

 個人主義が顕著な中国人を組織に引き付けておくには、同じ仲間・同志であることを印象付けるだけでなく、さらに一工夫が必要だ。

 「中国人は報連相(ホウレンソウ、報告・連絡・相談のこと)といった手順を重視せず、目的に向かって最短距離で進めます。仕事の過程はどうでもいいというわけですね。しかし、これではこちらの思いどおりの成果が得られないことも少なくありません。一方、日本人は上司に報告したり、同僚に相談したりして取り組みます。ですから、大まかな指示でも仕事を進めるうえでその都度、軌道修正してきちんと成果が出せる」

 このギャップを埋めるために橋本さんは部下の中国人スタッフに対しては、単に口頭で指示をするのではなく、文書やメモに、仕事の趣旨や内容をはっきり示して動いてもらうそうだ。

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外国語をあえて使わないことも……
弁護士に求められる言語の用法

 中国でのビジネスの現場では、中国語は必須なのだろうか。

 「現在の中国では30代の若い経営層が生まれていますが、彼らは英語を『標準装備』しています。中国は小学校から英語教育に力を入れているし、欧米に留学する人も多い。中国語は英語と子音の発音が似ている部分もあるせいか、発音も非常にきれいです。ですから若い経営者たちとなら、英語でコミュニケーションが可能です。ただし、中国語ができれば、非常に喜んでくれます。第一印象もよくなりますね。英語だけだとどうしてもビジネス上のお付き合いで終わってしまう感もあります」

 しかし、橋本さんは弁護士という仕事では「あえて戦略的に中国語を話さない」場面もあるという。

 「交渉の席上では、怖くて中国語はしゃべれないですね。ちょっとした用法の間違いで、意味がころっと変わってしまう場合があります。ネイティブでなければ、中国語での交渉は難しいのではないでしょうか。私は、話し合いの場には必ず中国人の弁護士を同行しますし、信頼できる通訳の存在も欠かせません」

 そして、中国、あるいは韓国でのビジネスで日本人ビジネスパーソンが忘れてはならないことは、両国にまたがる歴史認識の問題が厳然と存在しているということだ。

 「中国には日本との歴史的な出来事にちなんだ記念日があります。日系企業がそうした日に新商品を発売すれば、とたんに不買運動が始まってしまいます。タブーはどこの国にも必ずあります。事前に勉強しておかないといけません」

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しっかり自分の意見を言うことの大事さ
グローバル人材の必須要件

 日本では司法制度改革の一環としてここ数年、法曹人口を増加させる施策が進められてきたが、一方では法律事務所の雇用実情とのミスマッチを生じさせ、若い弁護士の一部に就職先が決まらないといった現象も起きている。そんな現実に橋本さんは次のように激励する。

 「若い人にはもっと好奇心をもってほしいと思います。日本は治安もいいし、便利だし、居心地が良すぎるためでしょうか、最近の若い人は海外に行きたがらないと聞きます。グローバル事業を経営の柱としている総合商社の新入社員ですら、『できれば国内勤務がいい』と……。ですが、自分の道は自分で切り開くほかありません。私は、弁護士としてのキャリアをスタートしたときに、“中国の未来”にかけました。この国はきっと大きく発展するに違いない。必ず私のスキルが必要とされると確信しました。いま、東南アジアやインドも当時の中国のように、限りない可能性を秘めています。弁護士の仕事だけでなく、特に専門的な仕事に対するニーズが高まっていくでしょう。若い皆さんはもっとバイタリティをもって、海外に目を向けてほしいですね」

 成熟社会といわれる現在の日本だが、裏返せば“低成長”を続ける停滞社会ともいえるだろう。あらゆるサービス・商品が飽和状態で、「仕事は足りている」という世の中だ。そんな時代に、若い世代は社会人としてのキャリアを築いていくことになる。

 橋本さんは、自身の活躍の場を“仕事が足りていない”海外へ求めた。そんな生き方は、いまの日本の若者にとってひとつのモデルケースとなり得るのではないだろうか。

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