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ベトナムに見た「三丁目の夕日」―― 単身乗り込みオフショア開発を成功させる

早稲田大学第一文学部卒業後、株式会社シーエーシー、株式会社AOLジャパンを経て2004年に独立。数社の会社の立ち上げを行い、代表取締役・取締役を務める。08年、デジパ株式会社取締役に就任、同年ベトナム法人デジパベトナム代表取締役。09年、デジパベトナムを売却した後、そのベトナム法人でオフショア開発を続けて、12年9月に株式会社旅キャピタル執行役員 CTOに就任。13年5月から現職。株式会社旅キャピタルは、日系最大規模のベトナムオフショア開発会社 エボラブルアジアを傘下にもつ。

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ベトナムの若い活力に刺激を受けて決断
会社の設立から採用、営業までひとりで
ベトナム人は勤勉で素直、しかも親日家
相手をリスペクトし、ダイバーシティを楽しむ

ベトナムの若い活力に刺激を受けて決断

 オフショア開発とは、ソフトウェア開発を海外の事業者や海外子会社に委託すること。自国よりも安価な労働力を活用し、開発コストを削減するのが狙いだ。日本のIT業界では、1990年代後半から中国でのオフショア開発が増加してきた。だが、経済成長に伴い中国の人件費が右肩上がりで上昇したため、新たなオフショア開発拠点の開拓が求められていた。そうしたなか、いち早くベトナムでオフショア開発拠点を立ち上げ、事業を成功させたのが藤田伸一さんだ。

 「2007年ごろ、当時親しくしていただいていたデジパというWeb制作会社の桐谷社長に『ベトナムにソフトウェアの開発拠点を立ち上げたい。ベトナムに行ってくれないか?』と誘われたんです」

 いずれは海外で働きたいと思っていた藤田さんだが、漠然と考えていたのはアメリカやヨーロッパで仕事をすることで、ベトナムは想定していなかった。迷っていると「じゃあ一度、視察だけでもしてみてよ」と言われ、行ってみることにした。

 「今もそうですが、10代、20代の若い人材が多くて、すごく活力のある国でした。当時(5年前)のベトナムのGDPは1965年の日本と同じくらい。まさに『三丁目の夕日』の世界なんです。みんなが国の成長を信じて疑わない真っ直ぐなところがあり、これは面白そうだ、ここで仕事をしたい、と強く思いました」

 藤田さんには大学時代からやりたい仕事がいくつかあった。そのひとつが、コンピュータに関連した仕事。小学生のころからコンピュータに触れ、プログラミングを学んできた藤田さんは、大学卒業後、一貫してコンピュータやインターネットにかかわる仕事に従事してきた。

 もうひとつが、英語の使える仕事。藤田さんは中学時代から「英語がものすごく好き」で、高校生のときは村上春樹に傾倒し、彼が薦める海外小説を原書で読んでいたという。外資系のAOLジャパンに入社したのも上記ふたつのやりたい仕事ができるからだ。

 さらに、「世界で働ける仕事に就きたい。経営者として、自分自身の力で何かをやりたい」と考えていた藤田さんにとって、ベトナムでのオフショア開発は、非常にチャレンジしがいのある仕事だったのだ。

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会社の設立から採用、営業までひとりで

単身乗り込んだベトナムでは、会社の設立や登記というまさにゼロからのスタートを切った藤田さん。現地の優秀なスタッフをうまくモチベートすることで、新会社を軌道に乗せていった。
単身乗り込んだベトナムでは、会社の設立や登記というまさにゼロからのスタートを切った藤田さん。現地の優秀なスタッフをうまくモチベートすることで、新会社を軌道に乗せていった。

 2008年3月、藤田さんは単身、ベトナムに赴任した。まずは会社の設立や登記からというまさにゼロからのスタートだった。ベトナムに会社を設立する場合、投資証明書(投資ライセンス)の発給申請を行う必要がある。日本の法人登記申請にあたる手続きだ。藤田さんはベトナム赴任前の2007年12月に、企業進出を支援しているコンサル会社を通じ、前もって発給申請を行っていた。

 「ところが私がベトナムに赴任した後も、なかなかライセンスが発給されない。問い合わせると『いまホーチミン市の副市長のハンコをもらうところまでいっているので、もう少しです』と。その後も連絡がないので再度問い合わせると『副市長がヨーロッパに出張してしまいまして……』みたいな状態が続いて、ようやく5月にライセンスが発給されました」

 最初はまったくのひとりなので、営業も採用も全部自分が動かなければならない。ホーチミン市内に電車はなく、交通手段はもっぱらバイク。

 「後にオフショア開発会社の副社長になるベトナム人スタッフを雇い、彼の運転するバイクの後ろに乗り、日本で言う『ニケツ』で朝から晩までバイクで移動していました。すごい社長ですよね(笑)。だからバイクの後ろから見た風景が、私にとってのベトナムの原風景なんです。ベトナムには5年くらい住んでいましたが、2年目からは自分でバイクを運転しました。そうじゃないと仕事にならないんですよ」

 採用を含む組織づくりと、ベトナム特有の登記プロセスや会計プロセスへの対応、さらには営業活動と、「ひとりでそれらをすべて同時に行わなければならなかったので、最初はすごく大変でした」と藤田さんは振り返る。

 「組織を20人くらいにするまでの1年が一番大変でした。その20人がコアメンバーとなるのですが、とにかく走り回って、ベトナム人のスタッフたちと向き合う毎日でした。ラグビーをやったことのない高校で、ラグビーチームを立ち上げて、ルールから教えていくみたいなイメージです」

 コアメンバーのなかに、ベトナム人社員の管理を任せられる人材を採用できたことも、その後の組織経営において重要だったと藤田さんは話す。

 「職場内の人間関係で困っていたり、プライベートで問題を抱えていたりする社員をケアするのは、同じ言葉を話すベトナム人じゃないと難しい。その点、のちに副社長になる彼が人事管理を最初に担ってくれたのが大きかったですね」

 もともと語学が好きな藤田さんも、ベトナム語を積極的に学んだ。会社に先生を呼んだり、土・日は家庭教師に来てもらったりして、2年間集中して勉強した結果、「中学校の初歩レベルくらいにはなった」という。

 「バイクで信号待ちしていると、隣のバイクからベトナム人のおばちゃんやお兄ちゃんが道を聞いてきたりするんです。それにベトナム語で答えられる程度になりました」

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ベトナム人は勤勉で素直、しかも親日家

 藤田さんによると、「ベトナムのなかではIT人材は超エリート層」なのだという。

 「みんな4年制の大学を出ていますし、コンピュータ関連の書籍が日本のように翻訳されていないので、英語の原書を読んでいる。英語に関しては日本人よりむしろスキルが高いのではと思います」

 技術面でも基礎能力が優れているので、経験はなくても適切なトレーニングを受けさせれば、しっかりしたソフトウェア開発が可能だという。

 「彼らは日本人と違ってものすごい勉強家ですよ。キャリアアップ志向も強く、仕事を終えてから、英語やコンピュータの勉強に行ったり、なかには理系のプログラマ出身なのにMBAのスクールに行ったりする。自分を高めるための投資を厭わないんです」

 ベトナム人は勤勉で素直、そのうえ非常に親日家なので、日本企業はベトナムに入りやすいと藤田さんは話す。

 「立ち上げ当初、日本語の通訳を採用するための面接で『どうしてうちの会社に入りたいのですか』と聞いたら『日本は戦争の後に焼け野原のなかから立ち上がって、ホンダ、ソニーをつくった。その秘訣を知りたい』と日本語で言われて驚きました。親日で日本に学びたいという気持ちが強いので、日本企業がマネジメントしやすいと思います」

 人材評価・育成に関しては、日本のやり方を積極的に導入した。

 「ベトナムでは緻密なパフォーマンスレビューや目標管理が行われていませんでした。そこで、3カ月後、1年後、3年後のキャリアプランを見据えた目標を与え、四半期に1回パフォーマンスレビューするというようなシステムを導入しました。ベトナム人にも抵抗感はなかったようで、逆に新鮮で喜んでくれました。向こうに行って気づいたのですが、日本のマネジメントというのはものすごく洗練されていると思います。日本人が得意とするそうした人事管理やチームづくりのノウハウと、キャリア志向が高く勉強熱心なベトナム人の強みがピッタリはまると大きな成果が出るというのを実感しましたね」

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相手をリスペクトし、ダイバーシティを楽しむ

現地スタッフをマネジメントしていくうえで重要なこととして、「相手へのリスペクト」を挙げる藤田さん。現在でもテレコンをするなど、現地スタッフとは強い絆で結ばれている。
現地スタッフをマネジメントしていくうえで重要なこととして、「相手へのリスペクト」を挙げる藤田さん。現在でもテレコンをするなど、現地スタッフとは強い絆で結ばれている。

 海外でプロジェクトを立ち上げ、現地スタッフをマネジメントしていくうえで重要なことは何か。藤田さんは「相手へのリスペクト」を強調する。

 「一番重要なのは、同じビジネスパーソンとして相手をリスペクトし、しっかり向き合って、一緒に仕事をするというスタンスだと思います。対等なパートナーとして、お互いの強みを活かせるような方向にもっていくことが必要です」

 もちろん、国が違えば文化も違う。だが、それも「『違いを理解する力』があれば克服できる」という藤田さんは、ベトナムの「大家族主義」を例にこう続ける。

 「ものすごく家族を大切にするので、おばあちゃんが病気した、腰が痛くなったというレベルで『会社を休ませてほしい』ということもある。でもそれは大家族主義という文化のコンテクストなので、それを理解したうえで『それなら土曜に出てきてくれないか』と頼めばいい。彼らは来てくれるし、最終的に仕事を仕上げてくれる」

 ベトナムで会社を立ち上げる日本企業のなかで、伸びる会社の経営者は、ベトナム人のいいところ、一緒に仕事をするパートナーである社員たちの良さを見つけて、それを伸ばそうとするという。

 「駄目なパターンは、お酒を飲みながら『ベトナム人は……』などとベトナム人の悪いところばかりを話しているような経営者です。グローバルマネジャーは、ダイバーシティがある環境で仕事するために来ているのですから、ある意味、それを楽しまないと。私はそういう意味でベトナムの生活をしっかり楽しみました。現地のスタッフと同じように屋台でも食事をしていましたし、『同じ釜の飯を食う』ことも大事ですよ」

 当然、海外で事業を立ち上げてマネジメントするためには、最低限の語学力が求められる。藤田氏は5年の間にオフショア開発会社を2社立ち上げ、事業を軌道に乗せたが、成功の理由のひとつが「AOLジャパンという外資系企業で英語が鍛えられたこと」と話す。

 「AOLのときはアメリカのヘッドクォーターからネイティブの英語で次々と指示を受け、それに答えを出さなければならなかったので、ある意味、現地法人の辛さがわかっている。だからこそ、今回逆にヘッドクォーターの立場でベトナム人達に指示を出す立場になり、わかりやすい英語を使ったり、ベトナム語を勉強して片言ながらもベトナム語でサポートするといった配慮ができたんだと思います」

 現在は、拠点をベトナムから日本に戻し、両国を行き来している藤田さんだが、将来的には再び海外で仕事をしてみたいという。

 「今後はやはりアジアの時代になってくると思うので、アジアのどこか、シンガポールでもミャンマーでもいいですし、そこに住んで会社を運営することが身近な目標ですね」

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