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エチオピアの「HAPPY!」を日本に届けたい――世界最高品質の羊皮を使用したレザーブランドを立ち上げる

デザイナーとして化粧品メーカーに勤務した後、青年海外協力隊員としてエチオピア・ガーナで活動。圧倒的な貧困や飢餓に苦しむエチオピアの現状を目の当たりする。帰国後、外資系ラグジュアリーブランドのマーケティング部に勤務しながら、起業に向けた準備を進める。2012年、エチオピアシープスキンを使ったレザーブランド「andu amet(アンドゥ・アメット)」を立ち上げる。2012年、日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2013キャリアクリエイト部門賞、2013年、第2回DBJ女性新ビジネスプランコンペティション特別賞。20

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レザーブランド「andu amet」が目指す 「エシカル」×「リュクス」
青年海外協力隊としてエチオピアへ。 目にした貧困の現実が起業につながった
日本人の常識にこだわらない。 現地で暮らし、相手の価値観を理解する
同じ職人どうし「いいものはいい」で通じ合う。 人が変わっていく様子が支えになる。

レザーブランド「andu amet」が目指す
「エシカル」×「リュクス」

エチオピアと日本を行き来しながら世界最高品質と謳われるエチオピアシープスキンを用いた
レザーブランド「andu amet」を起業した鮫島さん。「リュクス」かつ「エシカル」を標榜する。
世界最高品質と謳われるエチオピアシープスキンを用いたレザーブランド「andu amet」は「リュクス」かつ「エシカル」を標榜する。

 ブランド立ち上げから2年、エチオピアと日本を行き来しながら「andu amet」を育ててきた鮫島さん。主力製品であるバッグの素材となるエチオピアシープスキンは世界最高品質。絹のようになめらかな、独特の触り心地を「赤ちゃんのほっぺた」に例える人もいるという。

 デパートやオンラインショップなどで販売しているほか、今年オープンした南青山のギャラリーで展示を行っている。鮫島さんのもとには時折、バッグのユーザーからメッセージが届く。

 「例えば、『一生大事に使います』であったり、『バッグを職場に持っていくとみんなが触りにきて大変』であったり。みなさん、このバッグが大量生産品とは違う、職人達の思いのこもったハンドメイドの品だと分かってくださっています。そんなメッセージはすべてエチオピアの職人達にもフィードバックしているのですが、みなも喜んでいますよ。そんなことはこれまで言われたことがない、お客様がハッピーになってくれて嬉しい、と言って」

 「andu amet」が標榜するのは「リュクス(優雅さ、上品さ)」かつ「エシカル(倫理的)」なブランドだ。丹念な手づくりと高品質な素材、そしてデザインの力で一流ブランドの高みを目指す。また一方で、現地の素材で現地の人々とつくった製品を世界に発信することで、長期的にはエチオピアが抱える貧困問題の解決も目指している。鮫島さんは言う。

 「ユーザーは、社会貢献的な事業というだけでは製品を手にとってくれません。まず必要なのは一目で分かる品質の高さ。将来的には世界の一流ブランドと一緒に並べられ、憧れられるようなブランドに育てたい。そうしたらエチオピアの見え方も変わるでしょう。いま、エチオピアといえば途上国、飢餓と干ばつの国というイメージ。それが『エチオピアといえば素晴らしい羊皮の産出国』になったら、私は嬉しい」

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青年海外協力隊としてエチオピアへ。
目にした貧困の現実が起業につながった

 起業のきっかけは2002年にさかのぼる。当時、化粧品メーカーのデザイナーだった鮫島さんは、大量生産・大量消費の「モノづくり」に疑問を抱いていた。

 「何万トンもの商品が使われないまま廃棄されている。これでは “きれいなゴミ”をつくっているだけじゃないかと思ったんです。こんなモノづくりは、つくるほうにも使うほうにもよくない、もっとみんなが幸せになるようなモノづくりがあるはずだと」

 あれこれ悩んでいるうちに、青年海外協力隊のことを知った。何かヒントがつかめるかもしれない。そう思って参加すると、派遣された先がエチオピアだった。近年は経済成長率が毎年平均10%を維持しているものの、いまだ世界最貧国のひとつといわれる国。鮫島さんがそこで目にした光景は、衝撃的だった。

 「街を歩くと、数メートルおきに行き倒れている人がいました。物乞いをしている人もたくさん。それまで20カ国以上の国を旅したことがありましたが、エチオピアはどの国よりも貧しかったんです。最初の数カ月は悶々とするばかりでした。医者でも政治家でもないデザイナーの自分に、何かできることがあるとは思えなくて」

 だが、現地でファッションショーを開くなどプロジェクトを進めるうちに、情熱をもって仕事に取り組む職人達に出会った。「弘子のデザインは素晴らしい、一緒に仕事ができて嬉しい」とも言われた。そして最高品質のエチオピアシープスキンが安く買い叩かれ、そのまま輸出されていることを知ったときに「andu amet」のアイディアが生まれた。デザインによって原皮に付加価値を与えること、現地に拠点を置き、現地の人々との協働で新たなブランドを立ち上げること、デザイナーにもできることがあると確信した。

 「それができたら、現地の所得向上につながり、エチオピアの人も幸せ。日本人も、そうやって一点一点大切につくられたモノを使うほうが幸せだろうと思いました」

 だが帰国後は外資系ラグジュアリーブランドのマーケティング部に就職した。当初は帰国後すぐの起業を考えていたが、一度ストップしたのには理由がある。

 「私はモノづくりの人間ですから、デザインやコンセプトというのはいくらでもアイディアを出せるんです。でも当時は、お金の集め方や物流、人をオーガナイズする方法などが全然分かりませんでした。要は、ブランドの経営知識が欠けていた。それを実地勉強したいと思いました。世界のトップブランドのブランディングを学べたのも大きな収穫でした」

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日本人の常識にこだわらない。
現地で暮らし、相手の価値観を理解する

日本人の常識にこだわらず相手の立場になって考えることが大切。
エチオピアの工房では現地の職人との価値観の違いを埋めるために
できるまで何百回何千回と繰り返しお願いするしかない。
日本人の常識にこだわらず相手の立場になって考えることが大切。 エチオピアの工房では現地の職人との価値観の違いを埋めるために、 できるまで何百回何千回と繰り返しお願いするしかない。

 2010年、エチオピアに工房をつくり、現地の職人10人との協働が始まった。苦労といえば全部が苦労だったと鮫島さんは振り返る。言語については「習うより慣れろ」で生活するうちになんとか身につけた。一番の悩みは価値観の違いだ。日本では当たり前のことが、エチオピアでは当たり前ではない。本物のブランドにふさわしい品質を追求するためにも、価値観の違いを埋めていく作業が必要だった。

 「縫い目はまっすぐでないといけない、赤でとお願いしたものを緑でつくったら絶対ダメ。そういうことを何度もお願いするんです。魔法のような解決策なんてありません。『これじゃダメだよ』と言ってできるまで何百回何千回と繰り返すしかない」

 「時間どおりに」という価値観もエチオピアにはないものだ。1分の遅れも許されない日本人の考えを押しつけるのは難しい。「約束の時間を破ったらダメ」と言って解雇していたら、エチオピアでは誰も雇えないのだ。

 「だから『月曜の10時までに届けてね』とお願いするときも、内心『届くのは来月だな』と計算しておくわけです。それでも毎日『どこまで進んだ?』『明日は約束だよね?』などと電話する。それで届かなくても『届かなかったけどどうしたの?』『明日は大丈夫?』。それでもやっぱり届かないんですが、同じことを続けるしかない。1年ぐらいして、ようやく変わります。『明日』は無理でも翌週には届けてくれるようになり、無理なときは電話をしてくれるようになるんです」

 鮫島さんがいま痛感しているのは、相手の立場になって考えることの大切さだ。日本人の常識にこだわると海外ビジネスは立ち行かない。それは、過去に旅行者として世界をまわって得た感覚とも違うものだという。

 「現地で事業を起こし、そこで暮らすからこそ見える景色があるというか。エチオピアで時間どおりにモノが届かないのにも背景があります。電気が頻繁に止まるし、交通機関のインフラも整っていないので、やむを得ない部分がある。そういうことを短期の旅行で見聞きして知ったつもりになるのと、自分自身が毎日苦労しながら理解するのとでは、重みが違う。すると、エチオピアの職人さん達が話す言葉も違って聞こえますし、こちらのコミュニケーションの取り方も変わってくるんです」

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同じ職人どうし「いいものはいい」で通じ合う。
人が変わっていく様子が支えになる。

エチオピアの人々からは、細かいことでピリピリせず
大きく構えて人生を楽しむべきだということを学んだ。「『andu amet』のバッグを通じてエチオピアの豊かさも
日本に届けたい」と鮫島さんは語ってくださった。
エチオピアの人々からは、細かいことでピリピリせず 大きく構えて人生を楽しむべきだということを学んだ。 「『andu amet』のバッグを通じてエチオピアの豊かさも日本に届けたい」と鮫島さんは語ってくださった。

 「確かに、日本とエチオピアの違いはたくさんあります。でも一方では、職人どうし通じるところもたくさんあるんです。いいものを見れば同じようにいいと感じる。以前なら、曲がっている縫製とまっすぐの縫製を見ても、その違いが分からなかったかもしれません。でも、いざ自分がつくったものを見ると、まっすぐの縫製がいいと分かってくれる。そんな彼らを見ていると、自分がやってきたことはムダじゃなかったと思うんです」

 「なんでこんなに大変なことを始めたんだろう」と自問自答することもある。現地では素材調達、生産のフォローアップ、職人の育成……、日本では販売、広報、資金調達……と、両国で同時に発生し続けるタスクをこなさなくてはならない一方、日本だけで仕事をするときのような「効率」や「スピード」は追求できない。生活面でも、最初の1年は特に苦労した。

 「でもやっぱり、バッグができると嬉しいんですよ。これは本当に、私達の血と汗と涙の結晶です。登山みたいなもので、苦労するほど、頂上にたどり着いたときは達成感が大きい。このあたりの苦労話をあまりしすぎると、お客様がひいてしまうかもしれないので普段は控えているんですが(笑)、エチオピアの人達が日常している努力が10だとするなら、これは彼らも私も200ぐらい頑張ってつくったバッグなんですよ。すべてのバッグがそうなんです。『できたよ』と言って製品を手渡されたとき、それがお客様の手に渡ってお礼を言われたとき、やっぱりこの仕事をやめられないな……と思います」

 逆に、鮫島さんがエチオピアの人々から学んだこともある。細かいことでピリピリせず、大きく構えて人生を楽しむべきだという態度が彼らにはあるという。

 「エチオピアの人達を見ていると、どんなに忙しいときでもお茶を飲んでおしゃべりする時間を大切にしていたり、他人の失敗も自分の失敗も『no problem』と言って許し合っていたりと、日本とはまた違う豊かさがあるなと思うんです。一方の日本では、一分一秒の遅刻も、一字一句の間違いも許されない緊張があります。もちろんそういう緊張感のおかげでいまの日本の発展があると思うけれど、それが行き過ぎるとちょっと窮屈に感じるときもあります。『andu amet』のバッグを通じて、そんな日本にエチオピアの豊かさも届けられたら……と思っています」

 会社員から起業家への転身も、鮫島さんにとっては大きな変化だった。必要となる能力が180度違い、戸惑うこともある。しかしいまは、その変化を楽しんでいる。

 「起業家になると、右に行くか左に行くか、毎日のように意思決定をしないといけません。初期のころはよく、周囲の先輩や友人に事業の相談にのってもらっていたのですが、大企業の社員の方々に聞くと必ず右と言うところを、起業家はみなさん左と答えるんです。あとから気づいたのですが、会社員は90とか80のものを100にしたり、100のものを維持するために能力を使い、パーフェクトな道でないなら進むべきではないと考えるけど、起業家はゼロを1にする能力が必要で、不完全な道であっても走り出し、走りながら考え、修正していく。求められるものが違うから考え方が違ってくるんですね。私もいま、不完全な道を走り出しました。ジェットコースターみたいな毎日です。でも、大丈夫。ジェットコースターはもともと好きですから(笑)」

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