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「世界に対する好奇心」がすべて-自身の価値観をアートで表現する世界的なキュレーター

京都大学法学部卒業後、東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了。水戸芸術館学芸員、ホイットニー美術館客員キュレーター、世田谷美術館学芸員、金沢21世紀美術館学芸課長および芸術監督を経て、2006年より東京都現代美術館チーフキュレーター、多摩美術大学美術学部芸術学科教授。イスタンブール・ビエンナーレ(2001年)、上海ビエンナーレ(2002年)などを企画。2013年にはシャルジャ(UAE)・ビエンナーレのキュレーターを務める。

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キュレーターの仕事はクリエイティヴ
その土地のローカルのコンテクストを考える
展覧会の運営者、アーティスト、行政などと交渉
何よりも他者を理解しようとする意志が重要

キュレーターの仕事はクリエイティヴ

 キュレーターという言葉は、最近では「インターネット上の情報を収集・整理・発信する人」という意味合いで、IT用語のひとつとして使われることも多いが、もともとは美術館や博物館の専門職員を指す。

 「皆さん、『学芸員』という言葉にはなじみがあると思います。美術館で展覧会を企画する、あるいはコレクションを収集してそれを紹介する人達ですね。専門家として作品とそれが生まれた時代、ジャンルを研究し、それを一般の人に紹介するのが主な仕事です。ただし、『キュレーター』は、そうした学芸員よりもう少し広範な活動を展開します」

 長谷川さんによると、キュレート(curate)には「ものを修復する、直す」という意味合いがあったという。現在はそこから発展し、「ひとつの批評的な考え方、世界観、価値観」というものを展覧会の企画や作品の選択といったプラクティスを通して表現する、非常にクリエイティヴな仕事を表す言葉になっている。

 「評論家が言語を使って語るのと同じように、展示を企画しプロジェクトを遂行することを通して、自分の批評的なポジション、あるいは自分のソーシャルステートメントを表していく。キュレーターとはそういう仕事なんです。展覧会を企画するだけではなく、作品のリサーチャーであったり、文章の書き手、あるいはエディターであったり、プロデューサーの仕事もします。私の場合、美術館そのものをプロデュースすることで、都市の文化計画にかかわることもありました」

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その土地のローカルのコンテクストを考える

「若い方には『人生は短い』ということを自覚していただき、外に出て友人をつくったり、滞在したり、
ビジネスチャンスを求めたりということに対して大胆にチャレンジしてほしい」と語る長谷川さん。
「若い方には『人生は短い』ということを自覚していただき、外に出て友人をつくったり、滞在したり、 ビジネスチャンスを求めたりということに対して大胆にチャレンジしてほしい」と語る長谷川さん。

 長谷川さんは、金沢21世紀美術館や現在の東京都現代美術館など、日本の美術館での仕事と並行して、2001年のイスタンブール・ビエンナーレ(2年に一度開催される国際的な美術展覧会)など、数多くの国際的美術展を成功に導いてきた。活躍の場はアメリカ、ヨーロッパ、中東、南米、アジアとまさにグローバル。今年(2013年)も、シャルジャ(UAE)・ビエンナーレのキュレーターを務めた。

 「私にとって海外の仕事が面白いのは、それぞれの場所によって文化的なコンテクストが違い、オーディエンスがどんなものに興味をもつのかが違うことです。グローバルな時代なのでどこであっても共通の情報をもつことはできますが、やはりローカルのコンテクストが何なのかを考えながら前に進めていく必要があります。日本とは異なるオーディエンスに合わせて、展覧会の内容、コンテンツ、テーマ、見せ方などを考えていくことは非常に刺激があって勉強になります」

 では、キュレーターはどのようなプロセスを経て、ひとつの展覧会を開催まで導くのだろうか。「まずはその場所その時期でどういうものをテーマにしていくか、問題意識をもつ必要がある」と長谷川さんは説明する。そのうえでその問題意識やテーマに沿ったアーティストを調査し、作家や作品をセレクトしていく。アーティストに新しい作品をつくってもらう場合は、コミッションが発生するので、展覧会の事務局と時期や予算などについて絶えず話し合いながら進めていく。

 「シャルジャ・ビエンナーレでは、オーガナイザーとスケジュールや予算について話し合い、何人の作家をコミッションできるのか決めていきました。そして、例えば新しい映像作品をつくることになれば、そのためのプロジェクトチームをシャルジャにつくるなど、プロデューサー的な役割も果たしました」

 その後に作品の展示を進めていく。どのような場所にどの作品を配置していくのかなどと決めていく作業を「プレイスメント」ともいう。

 「シャルジャでは幅50メートルの大きな通りを改造してパブリックスペースにしたり、もと銀行の建物を全面イノベーションして展示場所をつくったりしました。キュレーターとして建築家と話したりしながら、そうした作業のすべてを監修し、100人近い作家の配置を決めていったんです」

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展覧会の運営者、アーティスト、行政などと交渉

東京都現代美術館では2014年1月19日まで、「うさぎスマッシュ展 世界に触れる方法(デザイン)」を開催中。現代社会のさまざまな要素や出来事を手にとれる形にデザインして届ける国内外のデザイナー、アーティスト、建築家など21組の表現を紹介したもので、「アートに特定の関心をもっている方ではなく、本当に一般の方達に向けてつくった展覧会」と長谷川さんはおっしゃった。
東京都現代美術館では2014年1月19日まで、「うさぎスマッシュ展 世界に触れる方法(デザイン)」を開催中。現代社会のさまざまな要素や出来事を手にとれる形にデザインして届ける国内外のデザイナー、アーティスト、建築家など21組の表現を紹介したもの。

 キュレーターはひとつの展覧会を開催するまでに、多くの関係者と協働することが必要になる。作品展示のため、時には行政サイドと交渉しなければならないケースもあるという。「イスタンブール・ビエンナーレのときは、ボスフォラス海峡にかかるボスフォラス橋の使用を巡って、橋を共同管理している10カ国以上から許可を得る必要がありました」と長谷川さんは振り返る。

 「その交渉のとき、私はトルコ語が話せないこともあり、あえて座って微笑んでいるだけでした。でもそれがよかったんです。『私は正しいこと、素晴らしいことをしようとしているのですよ。その邪魔をするなんて恥と思いませんか』という顔つきで微笑むことで、先方も『この人は許可をもらえるものと確信している』というオーラを感じ取ったのでしょう(笑)。文化やアートの世界では、ガンガンしゃべるよりも、黙って微笑んでいるほうがいいこともあるのです。ビジネスの場だとそうはいかないのでしょうが」

 また、予算が潤沢ではない展覧会の場合、キュレーター自ら資金調達を行うことも多いという。「誰も私の代わりをしてくれませんので(笑)。コンテンポラリーアートというのは基本的に理解を得にくくお金を出してもらいにくいのですが、『こういう考え方で展覧会を開催するので、非常に重要な意味がある。ぜひサポートしていただきたい』と訴えます」

 もちろん、アーティストとも展示作品などを巡って交渉しなければならない場面が多い。

 「作家は最善のプレゼンテーションをしたいと情熱的に取り組む。すると、どうしても予算が膨らんでしまうことが多い。それを諌めていき、クオリティを担保しつつ予算を縮小するよう交渉するためには、ある意味、『アメと鞭』的な『猛獣使い』のような手腕が求められます」

 アーティストと話すときは、何よりもまず相手の作品や考え方を理解することが重要だ。そのために長谷川さんは、その作家が生まれ育った国を訪問するという。そして相手に「あなたの国に行きました」といったことを話し、作品についても「何年の作品はこう評価するが、何年の作品はまた違う見方をしている」などという評価を伝える。そうした会話を通じて、相手は「この人は自分と自分の作品についてちゃんと分かってくれているんだ」ということを理解するようになる。

 「そのうえで、『私自身がどこから来て、どういう意図であなたに会っているのか。この展覧会のコンセプトはどういうものか』をちゃんと説明します。そして、『あなたにより良い仕事をしてほしいから、私はいまあなたと交渉しているのです』という言い方をします。頭ごなしに相手を否定するのではなく、あなたのことを一生懸命考えているということを伝えます。当然、相手も何か反応するじゃないですか。そのときは相手の話をしっかり聞く。そうした姿勢を示すことは、交渉にかぎらず人と関わっていくときの基本だと思います」

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何よりも他者を理解しようとする意志が重要

2014年2月15日からは「驚くべきリアル展 スペイン、ラテンアメリカの現代アート‐MUSACコレクション‐」が始まる。
スペインの90年代以降の作品にフォーカスしたカスティーリャ・イ・レオン現代美術館(MUSAC)のコレクションから27作家の作品が紹介される。
2014年2月15日からは「驚くべきリアル展 スペイン、ラテンアメリカの現代アート‐MUSACコレクション‐」が始まる。スペインの90年代以降の作品にフォーカスしたカスティーリャ・イ・レオン現代美術館(MUSAC)のコレクションから27作家の作品が紹介される。

 アートの世界にかぎらず、グローバルな舞台で活躍するために、どのような素養やスキルが求められるのだろうか。

 「やはり、『外国人をはじめとした他者を理解することが“インテリジェンス”なのだ』と知ることが基本だと思います。私は偉いんだ、私は知的なんだといくら叫んでいてもしようがありません。自分がいままで得てきた知識や、培ってきたコミュニケーション能力、観察力を駆使して、他者をどうやって理解するか。それに尽きると思います。また、他者を知るということは自分をより深く知っていくというプロセスでもあります。なるべくいろいろな価値観に触れて、自分自身の価値観は何なのか、より深く掘り下げていっていただきたいですね」

 長谷川さんは「要は世界に対する好奇心をもつことができるかどうか」だという。他者を理解すること、他者に関心をもつことを自分の喜びにできるかどうか、「今日は何に出会えるのだろう」とわくわくして生きることができるかどうかが、非常に重要だという。

 「若い方にはぜひ、『人生は短い』ということを自覚していただきたい。若いときに時期を逸すると、外に出ていくことが難しくなります。海外の友人をつくったり、実際に滞在したり、ビジネスチャンスを求めたりということに対して、大胆にチャレンジしてほしいですね」



東京都現代美術館のホームページ www.mot-art-museum.jp

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