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“Special”と“Need”を武器に世界へ―― 数々の名作を手掛ける日本人プロデューサー 奈良橋 陽子 氏 ならはし・ようこ  キャスティングディレクター・演出家・作詞家・映画監督

国際基督教大学言語学専攻卒業。ニューヨークのネイバーフッド・プレイハウスで演劇を学ぶ。帰国後は演出家、作詞家として活躍し、ゴダイゴのヒット曲などを手がけた。1974年には英会話教室スクールMLSを共同設立。1982年、企画制作会社UPS(アップス)を設立。近年はハリウッド映画のキャスティングディレクターを数多く務める。担当作は『ラストサムライ』『バベル』など。2014年には日本人ミュージシャンの雅-MIYAVI-をキャスティングしたアンジェリーナ・ジョリー監督作『アンブロークン』が公開予定。

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良いキャスティングは「ケミストリー」で決まる
遠慮する日本人は世界に出たら負けるだけ
間違いを避けていたら「学び」はストップする
I “need” to do this.がある人間だけが枠を飛び出していく

良いキャスティングは「ケミストリー」で決まる

“drama”(演劇、芝居)から多くのものを学んだという奈良橋さん。世界の映画界で活躍する日本人のひとりだ。
“drama”(演劇、芝居)から多くのものを学んだという奈良橋さん。世界の映画界で活躍する日本人のひとりだ。

 『ラストサムライ』『バベル』といったハリウッド映画で日本人俳優のキャスティングディレクターを務める奈良橋陽子さん。映画や舞台の演出家、プロデューサーとして活躍し、ゴダイゴのヒット曲「ガンダーラ」の作詞家としても知られている。

 2014年に公開予定のアンジェリーナ・ジョリー監督作品『アンブロークン』でもキャスティングを担当。映画の詳細はまだ明かせないが、確かな手応えを感じている。

 「この映画には、ミュージシャンの雅-MIYAVI-さんをキャスティングしたんです。もともとカリスマ性あふれるギタリストですが、演技もすごい才能の持ち主でした。誤解されがちですが、私は自分の好みでキャスティングしているわけではありません。監督の要望など、与えられるわずかな情報から役柄をイメージして俳優を選ぶ。役柄と俳優がぴったりとマッチングしたときには、そこにケミストリー(化学反応)が生じて、その役に本当に命が吹き込まれるんです。『ラストサムライ』の勝元役と渡辺謙さんがそうだったように、『アンブロークン』の雅-MIYAVI-さんも素晴らしいケミストリーでした」

 物心ついたときから“drama”(演劇、芝居)が好きだった。「いつのまにか当たり前に、はっきりと俳優になりたいと思っていた」と奈良橋さんは振り返る。大学で言語学を学んだ後、ニューヨークの演劇学校に留学したときも躊躇はなかった。日本帰国後は、演出家、作詞家、プロデュース業に俳優の育成、キャスティングとキャリアを広げてきた。

 なかでも「これが自分本来の仕事」だと直感するのは演出家の仕事。「役者がひとりの身体で表現できることには限りがあります。でも演出家は、たくさんの役者さんと一緒になって、強い表現を追求できる」。そして、根底にはいつも「素晴らしいdramaを表現したい」との強い思いがあるという。

 「dramaからは、コミュニケーションの大切さも学んだような気がします。特に『聞く』ことの大切さです。それはただ言葉を聞くだけじゃないんですね。例えば演技をしているとき、相手のセリフをその通りに受け取ることはしない。例えば、私が『Are you OK?』と尋ねて、相手が『OK』と答えたとき、『本当かな』と考える。そこまで含めて、演技なんです。演技でも会話でも、そうやって繊細に相手の話を聞くことが、コミュニケーションの原点だと思うんです」

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遠慮する日本人は世界に出たら負けるだけ

 奈良橋さんのキャリアにはもうひとつのテーマがある。「文化の橋渡し」だ。

 「父が外交官だったこともあり、小さいころからいろいろな国籍の人たちと接してきました。そのせいか、どんなに文化的ギャップがあっても、絶対に理解しあえると信じているんです。異なる文化の橋渡しに興味をもつようになったのは、そのせいでしょう。私が選ぶ企画も、文化の橋渡しを扱うものが多いんですよ。以前プロデュースした『ラーメンガール』という映画も、日本とアメリカの文化を橋渡しする内容。日本人の役者は日本語だけ、アメリカ人の役者は英語だけを用いて演技したら、何が起きるかと」

 1974年に英会話スクールを共同設立したのも、文化の橋渡しの一環だ。その後は、国際舞台で活躍できる日本人の育成にも踏み出していく。企画制作会社のUPS(アップス)を立ち上げ、オダギリジョー、別所哲也、今井雅之など数多くの国際派俳優を輩出した。17年前には、アメリカで学んだ演技を日本で広めようと、アップスアカデミーを設立。「アメリカの映画で必要になる演技を勉強すれば、日本人であってもアメリカ映画に出演できるようになります」

 しかし、奈良橋さんが本当に俳優達に教えようとしているのは演技そのものだけではないという。

 「“You are special.” これを一番伝えたいんです。人間はひとりずつ、それぞれユニークで素晴らしい個性を元々もっています。それを発見して、自分がスペシャルな存在であると信じてほしいんです。もっともっと自分を知って、肯定して、愛して、表現してほしい。そうしたら、自信をもって生きていくことができます。Dramaというのは、そうやって『生きる素晴らしさ』を教えてくれるものでもある。だから大好きなんです」

 ビジネスパーソンを含めて日本人が世界で戦うパワーを手にするためにも、「You are special」から生まれる自信が欠かせないと奈良橋さんは言う。

 「日本では遠慮や謙遜が美徳で、みんな一緒がいいという文化があります。もちろんそれも日本人のスペシャルなところのひとつで、ある種の神秘性が魅力になっている部分もあるかもしれない。でも、日本人が世界に出ていき、しかもビジネスで勝負しようと思ったら、そのままでは弱いんです。先日、ある大学でレクチャーしたんですが、学生たちは教室の後ろの席から座っていきました。これでは最初から勝負に負けています。実際、映画のキャスティングにしても、日本人よりも中国人、韓国人の俳優を選びたいという監督が増えています。彼らはものすごいパワーがありますから。アメリカのチャイナタウン、コリアンタウンの活気も、ジャパンタウンとは比べものになりません」

 ビジネス面でも同様。遠慮していたら日本人は利用されるばかり。主張するべきところはどんどん主張しないと、不利な条件を飲まされる現場もある。

 「映画の世界でも、ちょっとずるい人は報酬を明言しないとか、色々あるんです(笑)。アメリカは確かに契約を大切にする社会ですが、毎回そうとは限らない。日本人がそこで主張し、勝負に勝っていくには、根っこのところに自分を肯定する力、つまり『You are special』の精神が必要になると思います」

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間違いを避けていたら「学び」はストップする

『終戦のエンペラー』撮影時のワンショット。左はゲイリー・フォスター氏(プロデューサー)、右は野村祐人さん(プロデューサー)。Ⓒ Fellers Film LLC 2012 ALL RIGHTS RESERVED
「終戦のエンペラー」撮影時のワンショット。左はゲイリー・フォスター氏(プロデューサー)、右は野村祐人さん(プロデューサー)。Ⓒ Fellers Film LLC 2012 ALL RIGHTS RESERVED

 では、どうしたら、自信がもてるようになるだろう。奈良橋さんの答えは、「自信の種をつくるために、何かひとつ頑張ってみる」というものだ。

 「私の場合はdramaでしたが、何でもいいと思います。泥のなかから綺麗なハスの花が咲くように、苦しい思いをしながら一生懸命努力していたら必ず得られるものがあります。できない理由より、できる方法を探すことが大切なんです。終戦直後の日本を舞台にした映画『終戦のエンペラー』をプロデュースしてアメリカにもっていこうとしたとき、政治的なタブーに踏み込んでいる映画ですから、いろんな人にいろんなことを言われました。でも本当にやりたいことがあったら、なんとか方法を考えるじゃないですか。穴に落ちたらどうしようじゃなくて、どうしたらそこに橋をかけて穴を越えられるかを考えるようにしているんです」

 穴を怖がるのではなく、穴を越える術を考え続けていれば、いつか方法は見つかる。それは異文化コミュニケーションにおいても同じことが言えそうだ。

 「ニューヨークに行くとさまざまな人種がいて、ひどい発音で英語を話す人もたくさんいますけど、それでもサバイブしていますよ。『自分はスペシャルな存在なんだ、ここで生きていくんだ』という強い気持ちがあれば、言葉の壁だって乗り越えられるんです。逆に、言葉をいくら習ったところで、自分に自信がなくて積極性に欠けていたら、コミュニケーションどころではありません。日本人特有の、間違ってはいけない、間違いは恥ずかしいといった思い込みは捨てないと。私たちは、たくさんの間違いをしながら学んでいくんです。間違いを避けていたら、学びがストップしてしまいます」

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I “need” to do this.がある人間だけが枠を飛び出していく

 奈良橋さんは、これまで世界で活躍する優れた才能を間近で見てきた。彼らに共通するものがあるとすれば、それは何だろうか。

 「まず、自分がスペシャルであることを知っていること。しかも、それを小さい枠のなかで表現するのではなくて、大きな世界で表現したいと思う気持ちがあるかどうかです」

 役者の場合、それを“need”という。“want”でも“have”でもなく、I “need” to do this. たまらなくこれがしたいという、内側から突き動かされるような熱いパッションがある役者は必ず世に出ていく。枠を飛び越えていける。

 「欧米人が強いのはここですね。個人主義的な文化のせいもあるでしょうが、まわりに迷惑をかけることなんて関係なしに、自分の夢にがむしゃらに向かっていきます。その点、日本人はまわりの評価を気にしたり、尊敬を得られないことには手を出さなかったりと、“need”が弱いところがあります。私のところで演技を学ぶ若い人を見てもそうです。でもそれは、本人が隠していたたり、表に出してはいけないと思っているだけだったりします。きっと、本当はみんな“need”をもっている。それをもっと、表に出してほしいと思います。映画『バベル』に出演した菊地凛子さんも、すごく’special’で’need’が強く、”熱いパッション”の持ち主でした。だから、ビジネスパーソンのみなさんも“special”と“need”をご自身の武器にしてぜひ世界へ出ていってもらいたいですね」

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