• TOP>
  • 特集>
  • パリ在住20年―― 独自の感性でファッションシーンをリードする 日本屈指のカリスマバイヤー 湯沢 由貴子 氏

特集

東京と大阪に店舗を構える人気セレクトショップ『CONCENTO PARIS H.P.FRANCE』で、オープン時からバイヤーを務める湯沢由貴子さん。ファッションの本場ヨーロッパでも一目おかれるパリ在住20年の日本人トップバイヤーに、海外での成功術、さらにはバイヤーとしての感性を磨くためにも必須だという「人生を楽しむ力」について語ってもらった。

大学卒業後、百貨店に就職。入社3年目でショップマスターに任命され、売上を3倍に上げて表彰を受ける。その後、婦人雑貨バイヤーとして、インポート型アクセサリー&小物雑貨のショップでバイイングを担当。後にインポートレディースウェアのバイヤーも兼務する。渡仏後、商社勤務を経て、2000年にH.P.FRANCE SARL(パリ)に入社。翌2001年3月、「21世紀を明るくたくましく生きる大人の女性」に向けたインポートセレクト型バイヤーズショップ「CONCENTO PARIS H.P.FRANCE」の担当バイヤーに就

印刷用ページ

海外に行って初めて気づいた語学学習の意義
念願だったバイヤーの地位を捨ててフランスへ
感性を磨くのが何よりも大事
日本人の課題は“人生を楽しむ”こと

海外に行って初めて気づいた語学学習の意義

“表参道の「CONCENTO PARIS H.P.FRANCE」では、湯沢さんのバイイングによるハイセンスな洋服やアクセサリーなどが並ぶ。
表参道の「CONCENTO PARIS H.P.FRANCE」には、湯沢さんのバイイングによるハイセンスな洋服やアクセサリーなどが並ぶ。

 コレクションラインから気鋭のクリエイターまで、ヨーロッパ・ブランドの旬を揃えたセレクトショップ「CONCENTO PARIS H.P.FRANCE」。オープン時からバイヤーを務める湯沢由貴子さんは、今や日本屈指のカリスマ・バイヤーとして衆目を集めている。

 「バイイングはパリを拠点として、ミラノやロンドンのショーおよび展示会にも頻繁に足を運びます。洋服だけでなく、ハンドバックやアクセサリー、雑貨まで幅広くバイイングを行っているので、時間がいくらあっても足りません。常に新しい“出会い”を求めて飛び回る毎日で、気がつけばパリに来て20年が経っていました(笑)」

 いまや世界を股にかけて活躍する湯沢さん。両親の方針で中学からフランス語を学んできたものの、意外にももともとは海外にはそれほど興味がなかったのだという。

 「国際人として育てたい両親の方針で、中学からフランス語を選択できる学校に通い、大学でも仏文科に進みました。語学を学ぶ環境には恵まれていましたが、当時はそれほど海外に興味がなかったので、いま振り返っても学習意欲は決して高くありませんでした」

 しかし、大学時代に語学研修でヨーロッパへ行った経験が大きな転機となる。日本との文化の違いに衝撃を受け、湯沢さんのなかで海外への興味が一気に膨らんでいった。

 「大学時代、夏休みの2カ月間を利用して、ヨーロッパへ語学研修に行く機会がありました。ギリシャ、旧ユーゴスラビア、ドイツ、オーストリア、スイスなどをまわり、フランスでは2週間のホームステイ。日本とは異なる文化や価値観にふれて、自分がいかに狭い世界で生きていたのかを知りました。語学を学ぶ意義にも初めて気づき、語学力を活かした仕事がしたいと考えるようになりました。このときの経験が、いまの私の原点となっていますね」

ページのトップへ

念願だったバイヤーの地位を捨ててフランスへ

“drama”</dt>
<dd>ファッションの本場で勝負がしたい、という想いで渡仏した湯沢さん。それから20年にわたりトップバイヤーとして活躍している。
ファッションの本場で勝負がしたい、という想いで渡仏した湯沢さん。それから20年にわたりトップバイヤーとして活躍している。

 大学卒業後、海外駐在のチャンスもある大手百貨店に就職し、販売員としてキャリアをスタートする。24歳でショップマスターに抜擢され、前年比割れを続けていた売り場を半期で再建。さらに、57カ月連続で黒字を出す人気店へと成長させる。

 「利益率や在庫率など、店舗のあらゆる数字を見直し、お客様に対してできることを考えては売り場に反映させていきました。接客したお客様一人ひとりのニーズを汲み取り、ご期待に添う商品が入荷されたらすぐに連絡するなど、地道な努力の積み重ねがあって、初めて売上につながっていく。お客様は自分の鏡。いい加減な接客をすれば、必ず自分に跳ね返ってきます。成功に近道はないんだと教えられましたね」

 数字で結果が表れるシビアな状況で、見事に成功を収めた湯沢さん。責任ある仕事を任されたことで、物販の売り場にとって大切なことは何かを学んだ。

 「物販というのは“売り場”にすべての答えがあるんです。商品は在庫まで詳細に把握し、ディスプレイの一つひとつにも明確に意味をもたせる。私はいまでも帰国した際、販売員と一緒にディスプレイを考え、店頭で接客もします。売り場では、接客もディスプレイも重要なプレゼンテーション。売り場のすべてにメッセージがなければダメなんです」

 その後、会社から業績が表彰され、念願だったヨーロッパ出張の機会が与えられる。湯沢さんがファッションの本場に初めて触れた瞬間だ。

 「パリでディオールとランバンのショーを見たのですが、会場の熱気に圧倒されっぱなし。バイヤーも世界中から集まっていて、一人ひとりのファッションへの情熱が凄いんです。フランスでは完全にファッションが文化として根づいているんですね。パリコレの時期にはゴールデンタイムのニュース番組で必ず『今日のシャネル』『今日のエルメス』etcというのを放送しているほど。私も早くバイヤーになってファッションの本場で勝負がしたいと強く思いましたね」

 その後、2つの語学学校を掛けもちして通うなど、仕事と並行して語学力を磨いた。また毎年必ずプライベートでヨーロッパを旅行してまわった。

 「語学をただ学んでいるだけでは、目的意識が希薄になってしまいます。私の場合、年に1回はヨーロッパに行ってフランス語や英語を使う環境に身を置いていました。そうすることで自分の語学力の成長を確かめられるし、実際に言葉が通じると、嬉しくて学習へのモチベーションも高まります。語学というのは、使わないと意味がないんですよ」

 30歳で念願のバイヤーとなり、婦人雑貨のバイイングを担当。後にインポートレディースウェアのバイヤーも兼務するようになる。しかし、約3年間バイヤーとして経験を重ねた後、34歳で百貨店を退社した。悩んだ末にフランスへの留学を決意したのだ。なぜ留学を選んだのか。

 「やりがいのある仕事を任されていましたが、このまま百貨店にいてもバイヤーとしてヨーロッパに駐在することは難しそうだったので、思い切って自ら渡欧することにしたんです。ファッションの世界では、やはりヨーロッパにいないと素晴らしい出会いは限られます。ヨーロッパには日本人が知らない才能あるクリエイターがたくさんいるんです」

 湯沢さんがフランスに渡ってまず取り組んだのはフランス語のさらなるレベルアップ。パリで語学学校に通いながら語学力をメキメキと上げていった湯沢さんだったが、商社のバイイングのサポートを現地で続けるうちにあることに気づいた。

 「当時、日本人のバイヤーを見ていると、気に入ったものがあっても『帰って検討します』と即決できない人が多かった。ものの良さがあまり分かっていないという印象がありました。自分だったら、これまでの経験を活かして良いと思ったらその場で買い付けられるのに…、という歯がゆい思いがありましたね」

 そんな思いを抱えていたとき、百貨店時代からお世話になっていたH.P.FRANCEの社長と偶然パリで再会。意気投合した湯沢さんは同社に入社、ショップ『CONCENTO PARIS H.P.FRANCE』の担当バイヤーに就任した。語学力と旬のブランドをセレクトする鋭い感性、また現地で磨いた交渉力を武器にまたたく間に頭角を表していった。以来、パリという「モードの中心」に拠点を構えて世界中のショーや展示会に足しげく通い実績を重ね、現在の日本を代表するトップバイヤーとしての地位を築いていったのだ。

ページのトップへ

感性を磨くのが何よりも大事

 バイイングにおいては当然「交渉」がつきものだ。海外の厳しい現場で場数を踏んできた湯沢さんにそのヒントを聞くと、交渉では「日本人の殻を破ることが大事」なのだという。

 「日本人の『奥ゆかしさ』は美徳でもありますが、その殻を打ち破っていくことも必要。いつも穏やかに『いい人』でいるばかりでは交渉の場ではつけ込まれることもあります。私自身、渡仏したばかりのころは何度もそういう経験をしました。こちらでは、相手の言うことに切り返し、戦っていかないと負けてしまう。フランス語の学校でも『ケンカするときの表現』を習ったくらいです(笑)。私もときには意図的なビッグマウスやパフォーマンスを交えながら、コミュニケーション・スタイルの違いを楽しむくらいの気持ちでバイイングや交渉に臨むようにしていますね」

 「殻を破る」ためには、早い段階から海外に出ることを勧める湯沢さん。海外では情熱をもった日本人と出会う機会も多いというが、逆に国内の若者には物足りなさを感じることがあるようだ。

 「学生の面接を担当することもあるのですが、積極的に海外勤務を希望する人が少なくなっています。ネットの発達などで生活が便利になり、逆に行動範囲がどんどん狭まっているのではないでしょうか。いまの時代は情報がありすぎて、物事を表面的にしか見られなくなっている。ネットで表面的な情報を知ることと、実際に体験することはまったくの別物でしょう。もっと自分でリアルな体験をし、感じることにどん欲になってほしいですね」

 ファッション業界の現状にも、やはりネット社会の影響は及んでいると湯沢さんは指摘する。

 「ファストファッションを中心に、ネットでも服や雑貨が手軽に買える時代になりました。確かに便利で良い面もありますが、売る側が効率を追究するあまり、しっかりプレゼンテーションをせず、ただ売れ筋を追うだけになっているという側面もあります。だから商品にも個性がなくなってきている。私は、自分で選んだ商品に対して的確なプレゼンテーションを展開し、その商品に込められメッセージを伝えていきたいんです。ファッションというのは、単なるオシャレじゃなくて、時代の気分や人の気持ちを表すもの。まさに『生きて』いて、絶えず変化をしているんです。だからこそ、バイヤーには、“旬”を感じる感性が不可欠なんですね。その感性を磨くためには、社会的な情勢がわかってないといけません。常にファッションだけでなく、幅広く世界全体のことを勉強しなくてはならないんです。感性が落ちたらおしまいなので、私も常に勉強し続けていますよ」

ページのトップへ

日本人の課題は“人生を楽しむ”こと

“drama”「ファッションは単なるオシャレではなく、時代の気分や人の気持ちを表すもの」と語る湯沢さん。商品のプレゼンテーションにもこだわる。
「ファッションは単なるオシャレではなく、時代の気分や人の気持ちを表すもの」と語る湯沢さん。商品のプレゼンテーションにもこだわる。

 感性を磨くために常に勉強し続けることの大切さを説いてくれた湯沢さんだが、一方で、心の余裕をもつことも感性を磨くには大切なのだと続ける。

 「忙しくて時間がないときは、なかなか買い物を楽しむ余裕もありません。特に日本人は仕事一辺倒になってしまう傾向にあります。しかし、フランス人を見ていると、どんなに忙しくても、休暇をしっかり取って人生をエンジョイしている。ここは日本人が最も苦手とするところではないでしょうか。私も人生を楽しむという点では、まだまだフランス人を見習わないといけません。心のゆとりがなければ、感性を磨くこともファッションを楽しむこともできないですから。文化の違いともいえますが、日本人は人生をもっともっと楽しむべきだと思います」

 フランス人の人生を楽しむ姿勢は、バイイングで来場するファッションの展示会でも垣間見えるのだという。

 「フランスをはじめとするヨーロッパの展示会は、会場の雰囲気が開放的で、ビジネス色の強い日本とはかなり異なります。シャンパンが無料で提供されるなど、商談の場というより、バイヤーとデザイナー・クリエイターがざっくばらんに話して、出会いを楽しむ場所という感じなんです。各ブースも全然堅苦しくなく、ラフでありながらしっかり個性があって、いつも宝探しをするようなワクワク感があるんですよ。だから何年通っても飽きないんでしょうね」

 もっと人生を楽しもうと心掛けつつ、自身も気がつけば仕事に没頭していると苦笑する湯沢さん。現状に満足することなく、今後の大きな目標に向かって日々邁進している。

 「今後、CONCENTOの店舗数を増やしていくことが当面の目標となりますが、この仕事をやっている以上は、いつかファッションの本場であるフランスにも出店したい。それにはまだまだ努力が必要ですが、その夢に向かって、これからも誠実に仕事と向き合っていきたいと思います」

 最後に、国際人となるために必要な心構えを教えてもらった。

 「海外に住んでいると、いろいろ納得できなかったり、驚かされたりすることもありますが、異なる文化や価値観を受け入れることができれば、人生は豊かになります。異なる文化や価値観があるからこそ面白い。洋服だってみんな同じ服を着ていたらつまらないでしょう。想定外の経験ができるのは海外だからこそ。日本にいる人たちも、安住の地から飛び出して、刺激的な世界へと足を踏み入れてほしいですね」

ページのトップへ

特集のTOPページへ

関連記事

キール
(ドイツ)

キール
(ドイツ)

ドイツ北部の港町、キールから、現地の歌劇場で活躍するダンサーが独自の目線でレポートします!

閲覧する

ニューデリー
(インド)

ニューデリー
(インド)

多様な宗教、言語、文化を持つ民族がひしめき合うインド。今回は首都ニューデリーからのレポートです!

閲覧する

ニューヨーク
(アメリカ合衆国)

ニューヨーク
(アメリカ合衆国)

今回はビジネス、政治、文化のすべてが集まる世界都市、ニューヨークからのレポートです!

閲覧する

ページのトップへ

特集
2016年02月25日
日本の技術と組織と人間力で
ASEAN諸国に「空の道」を拓く
山城 かすみ 氏
2015年12月01日
その国のためのブランドを目指し
「6億人の市場」に続く道を行く
伊藤 裕一 氏
2015年11月04日
高度成長市場で日本企業が目指す
キャラクター玩具の「地産地消」
大之木 鉄平 氏
2015年09月09日
技術と責任感と人間力で世界に築く
海外インフラの「JAPANブランド」
岡崎 真一 氏
2015年06月12日
モロッコにアフリカ初の高効率石炭火力発電所
国創りに寄与する重みと喜び
宮田 裕彦 氏
2015年04月07日
信頼関係で危機を乗り越え
世界が注目する難工事を成功へ
金子 泰丈 氏
2014年11月04日
賛否両論のフュージョン料理で
和食へと続く道を切り拓く
森本 正治 氏
2014年09月24日
チャンスがあれば世界中どこへでも
他流試合で和食を広める異色の料理人
髙木 慎一朗 氏
2014年08月22日
英国で懐石料理の神髄を伝える多才の料理人
海外の日本料理を次のステップへ
石井 義典 氏
2014年06月24日
パリ在住20年――
独自の感性でファッションシーンをリードする
日本屈指のカリスマバイヤー
湯沢 由貴子 氏
2014年06月24日
世界を旅するコーヒーハンター
コーヒーで世界を変える
川島 良彰 氏
2014年01月24日
“Special”と“Need”を武器に世界へ
数々の名作を手掛ける日本人プロデューサー
奈良橋 陽子 氏
2013年12月19日
世界に対する好奇心がすべて―
自身の価値観をアートで
表現する世界的なキュレーター
長谷川 祐子 氏
2013年12月19日
交渉成功のカギは信頼感とwin-win精神
多様性を受容する大きな気持ちをもって
スポーツビジネスの最前線で活躍する
菊地 広哉 氏
2013年10月04日
日英中のトライリンガル
中国人と同じ目線で語り合い
ソニー中国進出の地盤を固める
添田 武人 氏
2013年09月06日
エチオピアの「HAPPY!」
を日本に届けたい――
世界最高品質の羊皮を使用した
レザーブランドを立ち上げる
鮫島 弘子 氏
2013年09月06日
ベトナムに見た「三丁目の夕日」
単身乗り込みオフショア開発を成功させる
藤田 伸一 氏
2013年03月29日
" Stay Hungry, Stay Foolish ! "
個人レベルでのリーダーシップで
道を切り開け
中町 昭人 氏
2013年03月29日
中国ビジネスに見出した大きな可能性――
日本企業の中国進出を手厚くサポートする敏腕弁護士
橋本 吉文 氏
2013年03月29日
激変する企業法務の現場
総合商社の企業内弁護士として
チームを統括する
茅野 みつる 氏
2012年12月26日
理系の強みを活かして
何事にも挑戦するマインドが
グローバルマネジャーへの道を開く
除村 健俊 氏
2012年12月26日
ものづくりへの情熱――「理系人」の強みを活かして多国籍チームをマネジメント
森 英悟 氏
2012年12月26日
ITでは「技術」が世界の共通言語 だから、腕を磨き続けよう
川島 優志 氏
2012年07月18日
日本人のチームワークと、現地スタッフとの相互理解が米国での成功につながる
吉村 功 氏
2012年07月18日
グローバルマネジャーには多様性を価値に変える組織マネジメントが求められる
小平 達也 氏

そうだ、浅田さんに聞いてみよう! グローバルコミュニケーションのプロに無料で相談できるチャンス!!

世界ビックリ体験記 海外でのあんなビックリ、こんなドッキリ…。クオカードが当たる読者参加型コーナー!

IIBCグローバル人材育成フォーラム

会員登録はこちら 限定コンテンツも提供!

グローバルマネジャー facebookページへ

日本発、世界に飛躍 「地球人財」がグローバル時代を勝ち抜く