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  • チャンスがあれば世界中どこへでも 他流試合で和食を広める異色の料理人 髙木 慎一朗 氏

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父が創業した日本料理店「銭屋」を20代で継いだ髙木慎一朗さん。試行錯誤のなかで自らの料理を確立していった髙木さんの視線は、やがて世界へ。世界各地の料理イベントやホテルからの招きに応じて日本料理を披露する一方、こうした活動を通して世界のシェフとの交流を深めている。「料理には音楽に通じるものがある」。そう語る髙木さんが考える和食の伝播とは? そして髙木さんの抱く野望とは?!

1970年、石川県金沢市生まれ。86年から1年間アメリカに留学。金沢市内に「日本料理 銭屋」を創業した父・信の急逝により、料理の世界に進むことを決意。95年に日本大学商学部を卒業した後、京都の老舗料理店「吉兆」で修業を積む。96年末に「銭屋」入社、2000年には料理長に。06年、金沢市内に自らプロデュースした日本料理店「十月亭(じゅうがつや)」をオープン。11年、弟・二郎に銭屋の料理長を譲り、その後は料理を通じた海外との交流に注力。香港国際映画祭のVIPディナー、シンガポールのワールド・グルメ・サミット等

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音楽も料理も言葉がなくても本質は伝わる
チャンスがあれば世界中どこへでも行って他流試合
日本文化をベースに私が作る料理はすべて日本料理
夢はワールドツアー! 銭屋スタッフで世界を回る

音楽も料理も言葉がなくても本質は伝わる

海外の料理イベントにゲストシェフとして招かれることも多い。ドイツ・ハンブルグでの「CHEF SACHE」というイベントにて。

 北陸随一ともいわれる繁華街、石川県金沢市片町の日本料理屋「銭屋」。この店のカウンター越しに絶品料理でゲストをもてなしたかと思えば、アメリカはカリフォルニア州ナパバレーのレストランでは銀食器で食す日本料理を披露し、海外の料理イベントで流暢な英語で講演を行う。現在、和食の伝道師として世界を股にかけ、面目躍如の活躍をしているのが、「銭屋」代表の髙木慎一朗さんだ。

 現在の髙木さんにとって欠かせないツールとなっている英語の基礎は、高校1年の秋から1年間のアメリカ留学で身につけた。しかし、当時は料理を世界へ広めることなど意識していなかったらしい。

 「とにかく金沢、日本に留まりたくない。それだけでした」

 料理を志したのも、大学生になってから。「銭屋」創業者である父の急逝で、大学1年の頃、料理の世界に進むことを考えはじめ、大学4年の春に覚悟を決めて京都の老舗料理店「吉兆」に修業に出る。そして1996年、金沢に戻り、家業を継いだ。

 現在の活動につながる転機が訪れたのは2007年だ。2000年に料理長となって7年、試行錯誤のなかで自分の料理を確立していた高木さんは、ニューヨークで石川県の魚醤を紹介するイベントを行うという店の常連客の誘いに乗り、ポケットマネーで同行する。しかし、せっかくの日本料理が現地の人々にうまく伝わっていない。そう感じた髙木さんは、翌年、日本から食材と食器を持ち込み、腕利きのスタッフを引き連れてニューヨークに乗り込んだ。ハイエンドのオピニオンリーダーたちに直球勝負の日本料理を披露したのである。

 「料理は音楽に通じるところがあります。中学時代から洋楽が好きで、ビートルズやローリング・ストーンズ、レッド・ツェッペリンなどいろいろな音楽を聴いていましたが、当時はこうしたバンドに熱狂する日本人たちに対して懐疑的でした。英語もわからないのに本当に感動しているのかと。でも、日本の文化も歴史も知らない外国人のお客様が、銭屋で日本料理を食べ、感激して帰ってくれるのを見ているうちに、理屈抜きで伝わる本質というものがあるのではないか、と思うようになったのです」

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チャンスがあれば世界中どこへでも行って他流試合

2008年2月、ニューヨーク日本総領事公邸晩餐会でシェフとして料理を担当したときの一枚。

 果たして、直球勝負の日本料理は、ずばり言葉も文化も違うニューヨークの人々の心に届いた。反応は予想以上だった。イベントを訪れていた料理界の要人から軒並みランチやディナーの招待を受け、予定滞在日数を2日間延ばして対応した。そのなかには、あの『ザガット・サーベイ』誌の創業者もいたという。

 その後、香港国際映画祭や各地の料理イベントなど、海外のイベントから声がかかるようになる。世界各地のレストランからも招聘が相次ぎ、アラン・デュカスをはじめ、海外の有名シェフと交流する機会も増えていく。2011年に、弟に銭屋の総料理長を譲ってからは、海外とのビジネスに一層注力するようになった。世界での髙木さんの認知度は今、上昇中だ。しかし、当の髙木さんに気負う様子はない。

 「私は、日本料理を伝えたいという使命感や、上から目線で教えてやろうという気持ちで活動しているのではありません。いわば他流試合。チャンスがあればやってみたい、というチャレンジ精神ですね」

 こうしたチャレンジについて、髙木さんは独特の表現で説明してくれる。

 「私の好きなアーティストに佐野元春がいます。日本人アーティストで初めてラップをレコーディングしたといわれる人ですが、彼は1984年、単身ニューヨークに渡り、スタジオの手配やレコーディングのスケジュール管理などを自ら行い、曲を作りました。海外に乗り込んで現地の人間と何かをする。私はこの方法もありだな、と思ったんです。よく考えれば、建築界では丹下健三さん、クラシック界では小沢征爾さんなど、他のジャンルではとうに挑戦してきた人たちがいる。なぜ料理人にはいないのか」

 髙木さんの目には、日本料理界が長らく世界に門戸を閉ざしていたように映っていた。

 「海外で日本料理をつくれと言われたとき、われわれが最初に思いつく断り文句が『鱧がないと夏の日本料理は作れない』『水が違うと、出汁がいつも通りひけない』。どうせ日本の味は世界にはわからない、という島国ならではの閉鎖性もあったかもしれません。でも、カリフォルニアロールも立派に市民権を得ています。実は非常に考えられた料理で否定すべきものではありません。変わることをおそれてばかりいたら、絶滅してしまうものもあるでしょう。ユネスコの無形文化遺産登録は、絶滅危惧種の保護の意味なのかもしれませんよ」

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